過労死は誰の責任か

城 繁幸

twitterで過労死に関する議論が盛り上がっている。筆者はどちらが良い悪いというつもりはないが、一応、実務畑の観点からフォローしておこう。

過労死や過労自殺というのはそれほど珍しい話でもなくて、管理部門の人間なら直接見聞きしたことはあるだろう。ただ、巷間言われているような「激務に押しつぶされた結果」というような分かりやすいケースは実はほとんどない(だから、稀にそういうケースがあるとニュースになる)。

実際には「過労死認定ラインぎりぎりで働いていたけど、プライヴェートでもいろいろストレスがあってそれらが重なって限界到達」のようなケースが多い。それを後から「会社の責任だからなんとかすべきだった」と言われても会社としても手の打ちようがないのが実情だ。

筆者の感覚だと、たとえ過労死認定ラインを残業時間月50時間に下げても、同じような神学論争は続くと思う。しょせん他人の限界、およびその原因なんて、本人以外にはわかりようがないから。

では、抜本的な処置としては何が必要か。それは突き詰めれば「きついと本人が感じたらぷいっと辞められる環境」だろう。一か月くらい南の島に行ってのんびりしたり、実家帰って畑仕事手伝ったりして、気が向いたらぶらっと再就職活動して、前とそんなにそん色ない職に就ける流動的な労働市場こそ、過労死を減らす特効薬だろう。

「人生で一度しか使えない新卒カードを使い憧れの大手広告代理店に入ったんだから、絶対に辞められない」みたいな現状こそ過労死の根源だと筆者は思う。

ついでに言うと、同じ構図は“少子化”や“男女間の賃金格差”にも当てはまる。一度離職してしまうと非正規雇用にしか就けず、生涯賃金が2億近く減る、という事情がそうした問題の根っこにはある。

共働き妻が会社を辞めざるを得ない深刻事情(東洋経済オンライン)


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2018年6月4日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。