1972年に書かれた『日本列島改造論』、御存知ですか?
僕も名前だけは知っていたのですが、総務省の先輩に勧められ、原典を読み返しました。
自民党総裁選の1か月前に出版されたこの本。田中角榮さんの総理としての公約本として脚光を集めました。
人口増と経済成長が続くことを前提としているので、具体の対応策が今とは異なるところはもちろんあるのですが、その理念はとても説得力があります。
例えば、
「年平均10%の経済成長を想定するならば、この7年間で日本経済の規模は2倍となる。したがって、計画のときに、その年の財政収入に見合った規模で査定し、事業をはじめると、事業完成時にはもう小さすぎるというケースが生じる。公共施設などは、もともと15年先くらいを見越して建設すべき性質のものであるのに、このような財政均衡思想がある限り、需要に対応できる社会資本の整備はすすまない。
(中略)
したがって、こんごの財政運営は、単年度均衡の考え方から脱して、長期的な観点に立った財政の均衡を重視していくべきである。」(P71、72)
要するに、「人口と経済成長の推移を見通して公共事業をすべきだ」という考えですが、人口減少が続く今ならば、ダウンサイジングを前提としてつくるべきということになるのかもしれません。
『日本列島改造論』で一貫して主張されるのは、過疎と過密の解消。国土の均衡ある発展。
今の地方創生にも通じる「大学を東京から地方に移す」ということなども力説されています。
面白いのは、四国と本州の三本の架橋。
これは「海の立体交差だ」というわけです。
瀬戸内海の東西方向で、1日1000隻以上の石油タンカーが往来するときことと併せて、南北に旅客船が数百隻往来することは、危険極まりないという発想です。
道路、鉄道、飛行機、住宅、港湾、用水、農業、都市建設・・・の全体最適と理想像を示しているところがとても興味深いです。
そして、科学技術と未来予想も示されています。1972年の時代に、情報通信が普及すると、田舎でも高等教育や医療が受けられるということも書いてあり、驚きました。
むしろこれらの主張が、さまざまな経緯で貫徹できなかったことに、今の社会の問題の一端があるのかもしれません。
不祥事への対応と批判もある程度は大切なのですが、全体最適と未来像を示すことがもっともっと大切です。明治150年の今、骨太の議論を期待していきたいです。
<井上貴至 プロフィール>
<井上貴至の働き方・公私一致>
東京大学校友会ニュース「社会課題に挑戦する卒業生たち」
学生・卒業生への熱いメッセージです!
<井上貴至の提言>
間抜けな行政に、旬の秋刀魚を!
編集部より:この記事は、井上貴至氏のブログ 2018年6月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『井上貴至の地域づくりは楽しい』をご覧ください。