先日、小池都知事に子育て中のママパパと共に要望書を渡してきた僕ですが、その後の動きにおいて、ついに大勢が決しました。
東京新聞:受動喫煙、国より厳しい規制案 都、内容変えず提出へ:社会(TOKYO Web)
都議会での可決はほぼ決定
勝負は、都側が受動喫煙条例案を各会派にどのように提示するか、にかかっていました。
各会派に提示された条例案は、そのまま議会にかけられていくので、実質的には議会が始まる前に方向性が調整されたものが出てくる慣例になっています。
ここで、都知事が飲食店組合の圧力に負けるか、振り切れるか、と言う分かれ道でした。
そして運命の29日、出てきたのは、元の厳しいままの条例案でした。
これで従業員を一人でも雇っている飲食店は原則屋内禁煙となります。喫煙客を迎え入れたい場合は、喫煙専用室を設けなくてはなりません。
幼稚園や保育所、小中高校は敷地内禁煙とし、屋外に喫煙所を設けることも認めません。僕の高校時代は、ヤニ臭い体育教師が体育館の前の喫煙所とかでタバコ吸ってましたが、そう言うのも一切ダメ、となるわけです。
多くの人の努力の結晶
今回の小池都知事の判断には、多くの人々が立ち上がったことが大きく影響しました。
都民ファーストの若手議員の 岡本 光樹 (Koki Okamoto)都議は、弁護士時代から受動喫煙問題に取り組んできて、都議になったことで、受動喫煙防止条例の推進役となりました。
彼が受動喫煙問題に目覚めたのは、保育士さんと話していた時に、全身からタバコの匂いを発しながら登園する園児の家庭に対し、どう接したら良いのか相談を受けたことがきっかけだったそうです。
また、小池都政に是々非々で付き合う都議会公明党も、 栗林 のり子 (Kuribayashi Noriko)都議を中心に、受動喫煙問題に関しては終始、規制導入に声をあげ続けてくれました。
民間でも、2017年から「#たばこ煙害死無くそう」運動( https://www.nomoresmoke2017.com/ )が学識経験者や著名人の方々から始まりました。
渋谷健司 Kenji Shibuya (東京大学大学院 教授)、イチロー・カワチ(ハーバード公衆衛生大学院 教授)、 為末 大 (Dai Tamesue) (元ハードル日本代表)、 中室牧子 Nakamuro Shirota Makiko (慶應義塾大学 准教授)、 津川友介 Yusuke Tsugawa (UCLA 助教授)等の方々を中心に、 乙武 洋匡 (Hirotada Ototake)さん、 宋 美玄 (Mihyon Song)さん、 堀 義人 (Yoshito Hori)さん、 牧浦土雅 Doga Makiura さんなど、インフルエンサーの方々が声をあげていったのです。
鈴木邦和(東京都議会議員 / 武蔵野市)都議の協力もあり、渋谷先生、中室先生らは受動喫煙条例案がまさにどちらに転がるかの際の部分で、小池都知事に直接提言。屋内禁煙になっても、各国では飲食店の売り上げは落ちていない、と言うエビデンスを滔々と説いたのでした。
その時の内部の方々の話では、「よくて30平米までは例外(=元の厚労省案)ではないかと言うレベルだったので、その後に「面積に関係なく、従業員を雇っていれば屋内禁煙」と言うタマが出てきた時は、正直要望していた我々も驚いたくらいでした。
バズフィードを中心に多くのメディアが受動喫煙問題を取り上げてくれたことは、世論の後押しを作ってくれました。特に 岩永 直子 (Naoko Iwanaga)記者と 朽木 誠一郎 (Kuchiki Seiichiro)記者は熱心に質の高い記事を発信してくれました。
また、 永江 一石 (一石永江)さんは、「永江砲」と言われるくらい、竜巻のようなバズを起こてくれました。刺激的な内容でありながら、エビデンスはしっかりと外さないそのスタイルは、個人が世論を生み出せる、という可能性を信じさせてくれるものでした。
今後の課題1:加熱式
非常に画期的だった受動喫煙防止条例案ですが、課題はないのでしょうか。
主に2点あると考えます。
IQOSやグローなどの、加熱式(=電子タバコ)の取り扱いです。
受動喫煙防止条例案で主に取り締まる対象は、一般的な紙巻きタバコです。
加熱式をどこまで取り締まれるのか、細かい条文を見てみないと、なんとも言えません。
たばこ会社はIQOSやグロー、プルーム・テックなどの加熱式たばこは、健康上のリスクが低いと言っています。
しかし、アメリカでは研究が進んでおり、加熱式タバコも紙巻きタバコとそこまでは変わらない程度の有害物質が入っていると言う論文も発表されています。
たとえばニコチンは84%(16%減)、アセトアルデヒドは22%、アセナフテンにいたっては295%(加熱式の方がむしろ多い)と言う結果です。
疫学研究のように肺がんが増えるという研究が出るには時間がかかりますが、有害物質の濃度であればすぐに評価できるはずで、有害物質の量がそこまで変わらなければ、副流煙の被害もそこまで変わらない、と考えるのが自然です。
加熱式たばこについては、「受動喫煙被害はない」と言うエビデンスが出るまでは、紙巻きたばこと同様に規制していくべきでしょう。
今後の課題2:実効性
もう一つは実効性の問題です。今回の条例には、「5万円以下の過料」という罰則がついています。
ただ、東京都の多くの区では、歩きタバコに過料を求めていますが、皆さんもお気付きの通り、関係なく歩きタバコをしている人たちはよく見かけます。
東京都の保健所のキャパには限りがあるので、保健所職員がすべての違反飲食点を回ることは難しいでしょう。
よって、違法店舗を通報できるコールセンター的な仕組みを整えたり、その店舗に条例違反である通知を送る業務を法律事務所にアウトソースできる仕組みを整えるなど、実効性を持たせていくのが重要です。
最後に
これでほぼ勝負は決まったので、条例の施行は2020年4月からですが、都内飲食店の経営者の方々におかれましては、これを機に店内禁煙に切り替えていって頂けますと幸いです。
また、国の受動喫煙は例外が大半で吸い放題という状況に対し、都が国の上をいったという状況に対し、与党国会議員の皆さんは恥ずかしく思って頂いた方が良いかと思います。
さらに他の自治体の皆さんも、受動喫煙条例を制定していかれると良いかと思います。若年層のタバコ離れは著しく、昔ながら吸い放題の地方をやっている限り、人の流出は止まらないですし、観光客も寄り付かなくなります。
ぜひ日本全体で受動喫煙ゼロを目指していきましょう。
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2018年6月4日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。