文藝春秋がきょう9日発売の7月号で報じた小池百合子氏の学歴詐称疑惑だが、読み物としては確かに面白い。しかし、昨晩以後、他媒体の過去記事やカウンター情報も得た関係で少しだけ軌道修正しておく。
執筆者の石井妙子氏は、吉村作治氏や、日本人で最初にカイロ大学を卒業した小笠原良治氏から、若き日の小池氏や小池氏の父を金銭的に支援した資産家の朝堂院大覚氏まで、多方面によく取材しており、つなぎあわせてみると「黒に近いグレー」に思える。
ただし、昨晩の記事にも書いたように“ストーリー”自体は面白いのだが、出ているのは「状況証拠」に過ぎない。決定的な物証、つまり「カイロ大学を卒業した記録がない」という証拠がない。(逆に小池氏サイドは都知事選の時に「証明書」とするものは提示している)
ここで興味深いのは、同じく小池氏の学歴疑惑を報じた週刊ポストの昨年6月16日号での記事だ。その取材ではカイロ大学の日本語学科のアーデル・アミン・サーレ教授が在籍記録を確認した結果として、「1976年に間違いなく卒業しています」(同教授、記事より)としている。成績は上から6段階で3番目だったというから「首席」には程遠かった可能性が強い。
ただ、都知事選で明示した経歴は、「カイロ大学卒業」でしかない。つまり成績は公選法の適法性を問われる対象ではない。同教授のコメントが真実であれば、本件は一丁あがりで、きのう都庁クラブの記者たちが質問しなかったのは、この記事のことがあるのかもしれない。
それでも質問自体は言質をとる意味でも再度しておくべきだったとは思うが、それはさておき、文藝春秋や石井氏もカイロ大学へのアプローチは抜かりなく行っている。同教授への取材もしており、もちろん、そこまでの成果を踏まえて小池氏サイドに取材もかけている(その詳細については「文藝春秋」に譲りたい)。
このあと、小池氏が黙殺するのか、法的措置などで反撃するのか。それとも文春側が今後「二の矢」を繰り出すのか。もし、文藝春秋・石井氏が疑った通りに真実が「卒業していない」のであれば、小池氏の政治生命は終わる。逆に、文藝春秋側の空振りに終われば、「虚飾の履歴書」というタイトルからして名誉毀損に觝触しかねず、媒体の信用性は地に堕ちてしまう。
「週刊新潮」が2009年に朝日新聞阪神支局襲撃(赤報隊事件)のテロ犯を名乗る男による手記を掲載したが、これがのちに虚偽だったことが判明し、新潮は大きく部数を落とした。
今回、文藝春秋の拠り所となっているのは、小池氏の元同居女性の証言や過去の手紙だ。中身は生々しく、手紙らしき写真も載ってはいるが、どれだけ古い紙なのか確認しづらい。赤報隊事件の偽手記のような怪しさこそ感じないが、証明力は高くない。それでも掲載に踏み切ったあたり、文藝春秋側の自信もあるのだろうが、リスクは決して小さくないようにもみえる。
むしろ、これまで沈黙してきた元同居女性が突然取材に応じた思惑、その背景に何があるのか、いま政治関係者の関心はそこに集まりつつある。
果たして、どちらかが倒れるまで戦うデスマッチになるのか、それとも空騒ぎに終わるのか。引き続き注目したい。