結愛ちゃん虐待事件でもスポットライトのあたった、里親制度。
一時保護所で一時保護をしても、原則2ヶ月したら児童養護施設か里親へと子どもを委託しなくてはいけません。
しかし、児童養護施設がいっぱいだったり、里親が地域にいなかったりすると、児相は家庭から引き離すことを躊躇し、家庭に戻してしまいます。
結果として、戻してはいけない家庭に子どもを戻し、子どもの命は失われていきます。
社会的養育ビジョンの提示
そうした状況に対し、厚労省および有識者会議が打ち出したのが「新しい社会的養育ビジョン」。
手厚く愛着形成ができて、子どもにとってベストな選択肢の一つである、里親の委託率を、現在の15%程度から、3歳未満児は5年以内、就学前児童全体では7年以内で75%まで上げていこうよ、というもの。
そのためには、これまで里親を任命したは良いけど放置気味だったりしていたのを、「フォスタリング機関」という里親発掘・支援機関を作っていって支えていこうよ、という方向性を打ち出したのでした。
養護施設業界団体の反発
これで良い方向に進むぞ、と喜び勇んだのもつかの間。
この方向性に大反対する勢力が現れたのでした。
それが、児童養護施設の業界団体、全児童養護施設協議会です。
里親が増える=自分たちの施設の子どもが減る=補助金が減って経営が立ち行かなくなる、という懸念から、里親委託率の目標を撤回させるため、自民党議員に猛烈にロビイングをかけたのでした。
現場の職員の方々は家庭養護と共に進んでいこう、という思いを持った人もたくさんいますが、経営者となると意識は違ったようです。
結果として、数値目標は無くなり、厚労省の方向性は「とりあえず里親頑張れ」的な内容に変わったのでした。
塩崎元厚労大臣らの怒りと巻き返し
それに激怒したのが塩崎元厚労大臣です。
数値目標が無くて、「できる限り頑張れ」みたいな内容だったら、実効性に欠けるじゃないか、と。
自民党内の「児童の養護と未来を考える議員連盟」、通称塩崎議連にて、厚労省局長以下の職員を呼んで、木村弥生議員や古川康議員など多くの議員とともに「これじゃあいかんでしょう」「数値のない目標って意味あるの?」という集中砲火を浴びせたのでした。
数値目標の復活
厚労省 vs 一部自民党議員 with 養護施設業界 vs 塩崎元大臣らという三つ巴の激しい戦いの末、厚労省は「都道府県社会的養育推進計画の策定要領」において、国の「就学前児は7年以内75%数値目標」を復活させました。
ただし都道府県ごとの数値目標は、都道府県に任せることに。
都道府県への強制力は弱まったものの、国の「3歳未満児5年以内・就学前児童7年以内75%」目標が堅持されたことで、そこからあまりにも外れる目標を都道府県が立てることは現実にはしづらいので、かなりの実効性が担保されたと言えるでしょう。
これから
これから都道府県は、里親委託率を大きく高めるために、フォスタリング機関を設置し、里親のリクルーティングや支援に懸命に取り組んでいかねばなりません。
ここでも都道府県の意識の差が如実に出ることになるでしょうが、地方議会を通して、国民の皆さんが都道府県行政の背中を押していくこと必要があります。
子ども達の命を救うためにも、そして子ども達が里親家庭で愛情いっぱいに健やかに育っていくためにも、我々の関心とエールが必要であり続けるのです。
編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2018年7月1日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。