米長期金利低迷の要因は?3%台回復は遠のくのか

米労働省が6日に発表した6月の雇用統計では、非農業雇用者数が前月比21.3万人増と予想の19.5万人増を上回った。失業率は18年ぶりの低水準である前月の3.8%から4.0%に上昇したが、雇用環境の改善により、多くの人が職を探し始めたことが要因となった。1時間当たりの賃金は前月から0.2%上昇と5月の0.3%から伸びがやや鈍化した。

6日に米政府は340億ドル規模の中国製品に対する追加関税を予定通り発動し、中国商務省はその直後に声明を発表し、直ちに対抗せざるを得ないと表明し同額相当の米製品に関税を課すことを示唆した。

貿易戦争が拡大してきたわけだが、6日の米国株式市場はこれについては比較的冷静に反応したようである。これはすでに予定されていたことで株価にはある程度織り込まれていたためとみられる。市場は予想されていたことについては、噂で売って事実で買い戻すような動きを示す。今後注意すべきは、市場の予想を超えて貿易戦争が拡大するようなことであるが、これについては予想も難しい。

6日の米国債券市場では、米雇用統計を受けて米景気拡大が意識されての株高を嫌気したものの、賃金の伸び率鈍化により、インフレ拡大の懸念が後退したことで、むしろ買われて米10年債利回りは2.82%と前日の2.83%から小幅低下していた。

米10年債利回りの推移をみると、5月半ばに一時3%台に乗せてから、その後低下して現在は2.8%台にいる。米長期金利の低下の要因としては、米国と中国など貿易相手国に対する関税の発動とそれに対する対抗措置による貿易摩擦拡大の懸念があった。また、イタリアでの五つ星運動と同盟による連立政権の発足も懸念材料とされた。

6月13日のFOMCでは予想通り、政策金利を年1.50~1.75%から1.75~2.00%に引き上げられた。また、今年の利上げ回数の見通しは、これまでの3回から計4回となった。しかし、これによる米長期金利への影響も限定的であった。

米商務省が6月29日に発表した5月の個人消費支出(PCE)価格指数で、FRBの物価の目安としている、変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数は前年同月2.0%の上昇となり、6年ぶりにFRBの物価目標である2%を達成した。しかし、これに対しての米長期金利の反応も限られていた。

さらに物価に影響を与える原油価格もあらためて上昇しつつあり、7月に入りWTI先物8月限は一時75ドル台に上昇した。しかし、これによる米債への影響もいまのところ限定的となっていた。

トランプ政権がさらにいろいろと仕掛けてくる可能性もあり、先行きが不透明な分、米長期金利の戻りが抑制されている面はあるかもしれないが、それにしても米長期金利の戻りは鈍く、それはドル円の上値も重くさせている。

もう少し様子を見る必要はあるものの、米長期金利の低迷はいつまで続くのか。3%への戻りは今後、かなり厳しくなるのか。もし米長期金利がこのままの状態が続き、FRBの利上げが継続すると、さらに米国の長短金利のスプレッドは縮小することになる。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年7月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。