株式の本源的リスクと株価変動のリスク

投資の本質は、一般化していえば、事業キャッシュフローに投資することに帰着する。もちろん、企業経営に事業キャッシュフローの創出を委任することになるので、投資の一般的形態は、企業の発行する株式や社債への投資になり、また企業に対する融資になるのである。

株式は、上位にある融資と社債等の価値を守るべく、事業キャッシュフローにかかわるリスクを吸収し、しかし、同時に、事業の成長を支えるものとして、上位の融資と社債等へ利息等が支払われた後の残余を独占することで、事業価値成長の恩恵を受けるものなのである。故に、株式投資の本質は、単なる事業キャッシュフローへの投資ではなくて、その成長への投資なのである。

成長しなくとも、ネット事業キャッシュフローがある限り、株式には投資価値がある。しかし、株式を上場している企業の場合は、そもそもの上場の目的からして、成長を志向しないわけにはいかない。ネット事業キャッシュフローの持続的成長への参画、これこそが株式投資の本質なのである。そして、その成長にかかわる不確実性こそ、株式投資の本源的リスクテイクの対象である。

しかし、多くの人は、株価変動を株式投資のリスクと考えている。株価変動のリスクは、上場株式に投資する以上、避け得ない付随リスクだが、本質的なリスクではない。本質的なリスクは、事業キャッシュフローの持続的成長にかかわる不確実性である。もちろん、この二つのリスクは、密接に関連する。

株価は、理論的には、企業のネット事業キャッシュフローの期待値の現在価値である。故に、成長期待の高い企業ほど、株価は高くなるのである。しかし、現在価値とは、遠い先の将来まで見込んだものだから、小さな期待の変化でも、株価に大きく反映してしまう。

従って、企業の事業キャッシュフローの実際の現在価値、即ち、理論的な企業価値とは別に、その企業の株価は、大きな独自の変動を示すのである。こうして、本来は、株式投資の本源的リスクは、企業価値変動にかかわるリスクなのだが、上場株式の場合には、そこに、単なる価格変動のリスクが必然的に付随して、大きな攪乱要因になってしまうわけである。故に、株価変動という付随リスクを制御するものとして、リスク管理が重要になるのだ。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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