これまでも噂にあったが、米投資ファンド「カーライル(Carlyle)」が1551年創業のスペイン最古の企業でカヴァの老舗コドルニウ(Codorniu)を買収することが6月27日夜半に明らかとなり、カタルーニャの代表紙『ラ・バングアルディア(La Vanguardia)』が他社に先駆けてそれを報じた。その後、他紙が一斉にそれに追随した。スペイン市場でコドルニウは知名度があり、高く評価されているブランドのひとつだからである。
どの紙面も今回の売却を非常に惜しむ感を記事の根底に漂わせている。売却に至った要因は、同族企業によくある株主の間で経営方針に統一性を欠いていたことと、売上がこの10年間伸び悩んで株主への配当が停止されていたことである。伝統を絶やさずに経営を続けようとする精神は、直接経営に携わっている経営陣を除いて皆無だった。
コドルニウは社歴が示しているように歴史が古く、創業者ミケル・レベントス(Miquel Reventós)のレベントス家がこれまで跡を継いで、現在5家族216人の株主がいる。現在の株主は15-17代目になるという。
現在の経営陣の経営方針に満足していない株主が売却に関心を示すようになったのは、直接のライバルである同じく同族企業のフレシネ(Freixenet)が3月にドイツのヘンケル(Henkell)に50.7%の株を売却したからであった。その買収額は2億2000万ユーロ(286億円)。
コドルニウのライバルであるフレシネがヘンケルの手中に収まり、ワインとスパークリングワインの事業を世界レベルで発展させたいと望むカーライルがコドルニウの買収に関心を持った。勿論、カーライルにとってはヘンケルと同様、経営権を握るために過半数の株を買収することが必要であった。
それがコドルニウの経営陣と株主に伝えられたのが今年4月。同月18日に臨時の株主総会が開かれ、株の売却に反対する経営陣の方針が承認されたという。しかし昨年の総会では、経営陣の方針に反対を表明した株主は29.7%だったというのは確認されている。
このような事情を踏まえて、カーライルは個々に株主の説得に努めたのである。カーライルの最初の提示額は2億ユーロ(260億円)であったが、買収額を2度修正して最終的に3億ユーロに加え、コドルニウが抱えている負債9000万ユーロもカーライルが負担することを提示した。それで55%以上の株を取得するということになり、総額3億9000万ユーロ(507億円)で合意が結ばれた。
CEOのマル・レベントスとジェネラルマネジャーのシャビエル・パジェス・レベントスらは、事業拡張の為の資金としてヴランケン・ポメリーの投資を望んでいた。勿論、それはあくまで株の過半数を満たさない条件での投資である。ヴランケン・ポメリーが候補に挙がった理由は、コドルニウのフランスでの販売を同社が担っているという関係からであった。しかしヴランケン・ポメリーが具体的に興味を示したのは、今回の合意が成立した前日の26日であったという。
カーライルへの売却に一番反対していたCEOのマル・レベントスも、「この合意によって国際化がさらに推し進められることになり、しかも(ワイン生産業者10社を包括する)コドルニウグループの戦術が継続され、より堅固にされるということで価値と名声あるブランドの育成に繋がる」と述べて合意することにしたという。
売却が正式に成立し、経営権の譲渡は今年末に予定されている。それは丁度1998年からCEOを務めたマル・レベントスが退任することになっていたタイミングに合わせての売却になるとしている。
フレシネの2017年度の年商5億3500万ユーロ(695億円)も、コドルニウの同年の年商2億3600万ユーロ(307億円)も、会社に充分に利益をもたらす業績ではなかったということである。
両社が経営不振に陥った要因としては、世界的に景気が後退したことに加え、カタルーニャ以外の地方で生産される安価なカヴァの成長が著しく、反対に高級カヴァの販売は停滞していることが挙げられる。しかも同族経営ということで、よりプロフェショナルな経営にも欠けていた。その結果、今年フレシネはドイツへ、コドルニウはアメリカに、それぞれ売却されることになったのである。