中国とEUにケンカを仕掛けたトランプに、安倍首相はどこまで追従?

田原 総一朗

首相官邸サイト:編集部

トランプ大統領の「アメリカ第一主義」が、どんどん露骨になっている。6月15日、中国に対して、1102もの品目で、段階的に25%の関税を課すと宣言した。

中国製品がアメリカ経済に打撃を与えている、とアメリカは考えている。今回の措置は、その対抗策だというわけだ。

かたや中国も負けじと対抗措置をとってくる。アメリカ産の農産物、乗用車などに、25%の追加関税を課すと、すぐさま表明したのだ。

まさに「貿易戦争」だ。トランプ大統領は、一連の高関税措置を「安全保障上の問題」と言っている。だが、本当にそうなのか、僕にはさっぱりわからない。そこで、この貿易摩擦問題を、80年代の日米関係から遡ってみよう。

80年代、レーガン大統領は、景気回復策の一環として、あらゆる経済上の規制をなくす、自由主義経済を徹底したが、その結果、貿易赤字が急激に増大した。アメリカの対日貿易赤字は、85年には、500億ドルに達したのだ。

そこでアメリカは、対日貿易赤字が減らない原因は、「円安」だという結論に達する。そして、円高ドル安に誘導する、「プラザ合意」が発表される。

日本市場の閉鎖性もやり玉にあがった。日本が自国内の経済を活性化させておらず、輸出に頼っていることも問題だとして、アメリカは日本に対し、「内需拡大」「公共投資」「規制緩和」を要求。これらの要望に応えるため、まとめられたのが「前川レポート」である。そして、日本はバブル景気を迎えるのだ。

一方のアメリカも、国内で矛盾が明らかになっていた。レーガン大統領が進めるグローバリズムの限界が露呈してきたのだ。自動車などの工場は、人件費の安い中国をはじめとするアジア諸国に、どんどん出て行ってしまった。

デトロイトなどの、自動車産業に支えられ、活況を呈していた中西部の都市は、いつしかラストベルト、「さびついた工場地帯」と呼ばれるようになる。

時は流れ、このラストベルトの労働者たちから熱い支持を得て大統領となったのがトランプだ。

かつて中国に工場を移したアメリカ企業で、技術が盗まれてしまうという問題が起きた。トランプ大統領は、これを「知的財産権の侵害」とみなし、中国に対する経済制裁として、追加関税を発表したのだ。

6月8日と9日にカナダで、G7サミットが開かれた。鉄鋼の輸入制限をEUやカナダにまで広げ、批判されたトランプ大統領は、アンチグローバリズムを表明して他の参加国と対立。トランプ大統領は中座し、シンガポールに向かってしまった。まとまりかけた「自由主義を守る」という合意に対して、反旗を翻したのだ。

トランプ大統領は、中国にだけでなく、EUにも貿易戦争を仕掛けた。そんななかで、日本がどのような態度を示すのか、これが大問題となっている。

安倍首相も、G7サミットで、自由貿易を守るべきという考えに賛同している。一方で、日本はさまざまな面でアメリカに頼ってもいる。対米従属と言ってもいい。日本政府は、今後、どういう態度を取るのか。

ここで、非常に重大な懸念がある。アメリカは、イランとの核合意から離脱を表明した。そして、EUに対して、イランからの原油輸入停止を要求している。日本に対しても同様に、停止を求めてくる可能性があるのだ。

日本政府は、イランとは友好的な関係にある。イラン・イラク戦争の際も、イランを支援している。現在、日本は、イランから総輸入量の5%に当たる原油を輸入している。もし「イランから原油を買うな」とアメリカから言われたとき、日本は、安倍首相は、どういう態度を取るのか。

貿易問題で、中途半端な態度をとれば、日本は世界から相手にされなくなるだろう。国家的な重要問題だ。にもかかわらず、国会でもまったく議論されていない。いったい、どういうわけか。

野党の追及は、相変わらず「モリカケ」ばかりだ。僕たちは、国際社会における日本のあり方を、いま国全体で真剣に議論すべきである。


編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2018年7月13日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。