安倍訪欧中止で世界は大きなものを失った

八幡 和郎

トランプ氏と向き合う各国首脳の写真がカナダのG7で話題に(首相官邸FBより:編集部)

安倍首相は、災害対応を優先するため、11日から予定していたヨーロッパと中東の歴訪を取りやめた。なんとか短縮しても実施したいとの気持ちもあったようだが、災害対策をないがしろにするのかと因縁をつけられることが明白ななかで、強行することは難しかったのだろう。国内基盤を弱くしては、外交も力を発揮できないから、やむを得ない判断だ。

しかし、この訪欧が日本と欧州の関係にとどまらず、世界外交のなかで格段に重要な意味をもっていたことを考えれば、残念しごくだし、当初から国会審議優先を唱えて妨害しようとした野党は、その不明を恥ずべきであるし、災害のあとでも、国益を犠牲にして、災害を喜々として利用して外交を妨害するような勢力には、未来永劫、政権につく資格がないといってもいいすぎでない。

訪欧日程のうちベルギーでは日本とEU=ヨーロッパ連合のEPA=経済連携協定の署名式に11日、出席する予定だった。EPA=経済連携協定については、双方ともに、食品や自動車につき、抵抗勢力があって交渉が難しかったが、トランプ政権の保護主義に対抗するために、急展開して実現の運びになった経緯がある。

トランプの保護主義に、それぞれの国が対抗するのも重要だが、アメリカを置いてきぼりにして、こうした協定を結んでいくことが、もっとも有効にトランプの圧力を無力化することである。安倍首相がブリュッセルで調印式に臨めば、ヨーロッパはもちろん、アメリカなどでもかなり大きく報道されたことは間違いない。

その意味で、日本の野党はトランプの保護貿易主義のもっとも頼りになる“支援者”となった。

また、パリでは、日本とフランスの交流160年を記念した文化イベント「ジャポニスム2018」が、パリで開幕した。「ジャポニスム2018」は、日仏修好通商条約締結から160年になるのを記念して開かれるもので、およそ8か月間にわたって、伊藤若冲、琳派など日本の美術、芸術の展覧会のほか、歌舞伎、現代演劇などの舞台公演がフランス各地およそ100の会場で行われる。日本政府は今回のジャポニスムを今世紀最大の文化事業と位置づけており、その開会式に安倍首相は出席の予定だった。

文化の国であるフランスにとって、この種のイベントへの注目度は日本の比でなく、マスコミでも大きく扱われるから、安倍首相がこれに出席して、日本の文化についてアピールするすることの意味は格別の意味をもつはずだった。

是枝監督のパルムドール受賞へのお祝いが足りないといい、文科相がお祝いをいおうとしたら、「そんなもんはいらん、金だけ出せ」という傲慢な偽リベラル勢力が、こうした政府として最大級の文化イベントに首相が出席することを「外遊」としかみずに妨害することに狂奔するのは見苦しい限りだ。

そして、第一次世界大戦終結からちょうど100年目のフランス革命記念日のパレードへの主賓としての出席は、日本が第一次世界大戦戦勝の同盟国であることを思い起こさせ、中国の太平洋への進出に協力して対処する関係の象徴となるはずだった。

ヨーロッパでは、イギリスがEUから離脱し、ドイツのメルケル首相の威光に陰りが顕著ななかで、これから10年近くマクロン仏大統領が外交の主導権をとると見られている。また、マクロン大統領と安倍首相は、トランプ大統領との個人的な関係が良好であって協力して世界外交を指導していかねばならない立場だ。しかし、これまで、国際会議では交流しているものの、両者がじっくり時間をかけて話しあうことがなかった。

その意味で、今回の訪仏は、世界外交においても非常に重要な意味を持つものであった。そうした意味で、野党には、災害対策を実質的に遅らせるようなことのないように、万全の処置をするなら、ぜひ、行ってきなさいといってほしかったし、そういうことであれば、いつか、政権復帰して欲しいと激励したくもなるが、党利党略のためになら、世界の平和と繁栄の足を引っ張るようでは、将来ともに、政権復帰などして欲しくないといわざるをえない。