ベトナムIT事情②オフショア開発で終わってはいけない

国会議員秘書時代に、バス会社の協力を得て、ダナン市にバスを寄贈したことがあります。その思い出のあるベトナム中部都市ダナンに行きました。砂浜が続くビーチ沿いはホテルが立ち並び、シーフードレストラン、バーなども多数店を構えている。正にベトナム中部のリゾート地であることは間違いありません。リゾート地の側面を持つダナン市はベトナム国のIT推進自治体となっており、川崎市と姉妹都市を結んでいるのです。ベトナムのIT先進自治体という位置づけのあるダナン市が何を考え、何をやろうとしているのか、自治体の事例を学びに訪問しました。

ダナン市役所では、情報通信局(局長 Nguyen Quang Thanh/副局長 Le Son Phong/IT部長代理 Thai Thanh Hai)、科学技術局(局長代理 Vu Thi Bich Hau)、産業貿易局(局長代理 Nguyen Thi Thuy Mai/エネルギー部長 Vu Tran Huynh Vuong Hoai)等の関係部局と具体的な施策に関する意見交換を行い、最後にダナン市人民委員会Ho Ky Minh副委員長と会談を行い、自治体、大学等の各レベルにおける日越の協力を推進していくことで意見の一致を見ました。僕が協力できる分野は、大学間における特にITと水素エネルギー(再生可能エネルギー)分野なので、そこは具体的な取り組み案をつくる約束をしてきたのです。有言実行をモットーとしているので、現在、枠組み、内容を検討しているところです。

ダナン市でも繋がるという意味でのITインフラの整備は大分進んでいるようです。国からIT推進の都市という位置づけを受けていることから、ダナン市役所も積極的にIT化を進めている。eガバメントのプラットフォームをつくるために、2030年までの長期計画を持ち、2021年まではアプリケーション開発を前進させるという位置づけになっています。

周辺自治体とのデータ連携を行うことが出来るような仕様をITベンダーの協力を得ながらつくっているという。eガバメント、スマートシティ等、ITンダーがバラバラにシステム設計をしても繋がらない、データを共有出来ない、データを分析出来ない、日本でも生じていることです。日本での悪い経験を活かして、ベトナムでは同様の事態にならないようにしてもらいたいのです。

ダナン市の担当者から話しを聞いていると、データの活用を積極的に行いたいのだが、仕様をつくるIT人材は市役所にいないため、結局ITベンダーの力を借りている、という構図になっています。データは繋がるとベンダーは言っているようですが、それは正に垂直型統合、自分たちのシステムを周辺市町村やスマートシティ運営者が利用すれば繋がるという意味だ。「そういうことでしょ」と僕が聞くと「その通りだと」と担当者も答えました。日本も同様の事態になっているので「官民データ活用推進基本法」をつくって垂直型統合ではなく、水平型統合に向かう一歩を踏み出したことを説明したのです。参考にしてもらうために基本法の英語版をメールで送ることを約束しました。

ダナン市の民間IT企業への振興策は、企業誘致としてのソフトウエアパーク2か所、ITパーク2か所(整備中)、ハイテクパーク1か所、FPTcomplex(developed by FPT)の整備を行っている。また、IT企業が入居できるビジネス促進センターもあり、現在はベトナム系企業30%、日系企業30%、他の外資系30%となっている。入居制限は無いが、料金は周辺部に比べて高い。

日本企業の動向としては、NTTデータがダナンに進出しており、ベトナム、日本のIT関係団体間でのIT会議も開催しているそうだ。ネットワークづくりに関しては、ダナン市とIT民間企業との会議を定例的に開催している。IT先進自治体を運営していくためには、もちろん人材育成が不可欠で、ダナン大学、フエ大学を始めとする周辺38大学と高専が担っている。

ダナン市の地政学的位置づけ、人件費を踏まえれば、オフショア開発がメインになることも理解できる。オフショア開発としては、米国36%、日本36%、EU12%、他16%という比率になっているという。オフショア開発は人件費が高くなれば、賃金の低い国に仕事が奪われてしまう。

そもそも下請け・孫請け構造では、企業としての利益率は低いし、働く職員の経験値は上がっても能力向上にはつながらない。社会課題を見出し、自らその解決をするためにITを使ってビジネスをつくるという仕組みに切り替わることが重要なのです。しかし、残念ながら、ダナン市には、企業を受託ビジネスからサービス提供企業に切り替えるための転換政策はない、という。

そもそも、社会課題を見出し、ビジネスを作り上げるための学び、経験を積み上げる場がなく、人材が育っていない、ともいう。「卵が先か、鶏が先か」という議論になっても意味がないので、一歩踏み出す他ないと思う。それを多摩大学大学院ルール形成戦略研究所が協力することが出来るのでないかと考えている。

17世紀朱印貿易が盛んな時代、ダナン市内から車で40分のホイアンには、日本人が多く住む日本人街があったという。中国人街と日本人街を結ぶ「日本橋」と言われていた橋もあり、ダナン・ホイアンと日本との深い関係は歴史が積み上げたものです。だからこそ、これからはITビジネスで交流を深めることが出来たらと思うのです。

それはオフショア開発という繋がりではなく、社会課題に対しお互いで見出し、投資し、実証を行い、アジアにマーケットに展開していくと言う関係です。その際に、日本側は沖縄がその入り口であるべきと思う。琉球王国がアジアのハブであったように。そして、IT化が進めば進む程、アナログが重要になる。そのアナログとは正に人と人の交流であり、地政学的な近さが重要になる。だからこそ沖縄だと思う。全てをマルチにこなせる国もなければ、企業もない。だからこそコラボレーションが重要な時代になってきている。


編集部より:この記事は元内閣府副大臣、前衆議院議員、福田峰之氏のブログ 2018年7月15日の記事を転載しました。オリジナル記事をお読みになりたい方は、福田峰之オフィシャルブログ「政治の時間」をご覧ください。