サッカーは世界最大のスポーツ人口を誇る。欧米、南米からアフリカ、オセアニア地域までサッカーボールは至る所で蹴られている。サッカーは文字通り、民族、国家の壁を乗り越えて世界を一つにしている。サッカーは世界の政治家が出来ないことを成し遂げているわけだ。
サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会には32カ国から選出された代表チームが参加したが、どの国にも難民・移民系の出自の選手がいる。今回優勝したフランス代表も例外ではない。多くの北アフリカの移民系選手がいる。ドイツ代表でも2人のトルコ移民系の選手がトルコのエルドアン大統領と記念写真を撮ったことが大きな話題となったり、スイス代表の2人のコソボ出身の選手(グラニット・シャカ、ジェルダン・シャキリ)がゴール後、アルバニア国旗のシンボル、「鷲」のポーズをして国際サッカー連盟(FIFA)から罰金を受けたことはまだ記憶に新しい。
いい悪いは別にして、サッカーのナショナル・チームですら既に一種の多国籍企業となっている。単一の民族出身者の選手だけで構成されている代表チームはほとんどない。その意味で、サッカーは世界平和に具体的に貢献しているスポーツと言えるだろう。サッカーこそノーベル平和賞の最有力候補といっても可笑しくない。もちろん、腐敗と汚職が絶えないFIFAの機関・組織の話ではない。サッカーというスポーツ競技の話だ。
ところで、ドイツでは目下、ヨアヒム・レーブ監督の独代表チームがなぜグループ戦最下位という考えられない成績で終わったかについて、サッカーファンだけではなく、大げさにいえば、ドイツ国民全員が考えている。
興味深い点は、ドイツでも敗北の責任者追及が議論されるが、それよりも「なぜ負けたか」という敗北の原因について多くの関心が注がれていることだ。どこかの国のように不祥事が生じれば、その原因追及を忘れ責任者探しに明け暮れるといったことはない。
レーブ監督は早々と継続を表明している(同監督の契約は2022年まで)。それに対し、辞任を要求する声は少数派だ。サッカーファンの関心は今、レーブ監督が敗北の原因をどのように分析し、新しいチーム構想を提示できるかに集中しているのだ。
独代表チームの敗北について、ドイツではサッカー専門家たちだけではない。教会で「神の話」をし、信者たちの精神生活をケアする枢機卿もその論戦に参加してくるのだ。
独ケルン大司教区のライナー・マリア・ヴェルキ枢機卿は「独代表の敗退」と「独カトリック教会の現状」の間に2、3の共通点があるというのだ。同枢機卿は15日、大聖堂ラジオで、「代表チームの11人にはピッチで情熱と感動が欠けていた。選手の実力は問題なかったが、彼らには安逸で自己満足な感じが漂っていた。一方、教会はどうかといえば、残念ながらよく似ている。善意はあるし、神から与えられた能力もあるが、燃えるようなものがなくなっている。イエスは感動する者を必要としている。教会ではそのような感動する者を見つけることは稀だ。教会はマンネリ化し、アピール力は消えていった」と述べている。正論だ。
最後に、ドイツ代表の敗北の原因としてこれまで指摘されてきた点をまとめる。
①グループ戦に入る前から「グループ戦を勝ち抜くのは簡単だ」と安易に考え過ぎた、気が緩んでいた。
②ロシア大会では宿泊先ホテルで湯の出が悪いといった不満の声が多く飛び出すなど、選手自体が傲慢となっていた。
③代表選手選出で実績主義が忘れられ、活躍した若手選手が選ばれなかった。
④トルコ系の2選手への対応がまずかった。
①ドイツはグループFだった。スウェ―デン、メキシコ、韓国、そしてドイツの4チームだ。FIFAランクを見るまでもなく、W杯前王者のドイツには他の3チームは安易な相手だった。結果は、1勝2敗でグループ最下位に終わった。
②前回W杯で勝利した独代表チームの主将、フィリップ・ラーム氏などもその点を指摘している。
③レーブ監督はGKにマヌエル・ノイアー(32)を抜擢した。ノイマーはFCバイエルン・ミュンヘンで今シーズン怪我でほとんど出場していない。一方、マルク・アンドレテア・シュテーゲン(26)はバルセロナのGKとして活躍したが、使われなかった。また、英プレミアリーグのマンチェスター・シティFCで活躍するドイツの若手ホープ、MFレロイ・サネ(22)は23人の代表の枠組みにすら選ばれなかった。
④W杯前にトルコ系の2人の代表(MFメスト・エジルとMFイルカイ・ギュンドアン)がトルコの(大統領選挙戦中の)エルドアン大統領と会見し、ユニフォームをもって大統領と記念写真を撮ったことが報じられると、「ドイツ代表の一員として相応しくない行動だ」という批判が高まった。2人をロシア大会に連れて行くのはよくない、といった声すら聞かれた。メディアから独代表の敗北の主犯として批判されたエジル選手の家族は息子に「そんな代表チームから辞退すればいい」と激怒している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年7月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。