スペインのワインがあたかもフランス産のワインであるかのようにして世界に輸出されている問題について、フランス政府はこの取り締まりを本格的に進めて行く方針を決めた。
スペインのワインであるのに、フランス政府がこの問題を重要視し始めたのは、スペインからフランスへバルクワインの輸出が年々増加して、フランスで栽培されるワイン用のぶどうの需要が減少しているからである。
それによって、フランスのぶどう生産業者が損害を受けている。だから、スペインのバルクワインを積載したタンクローリがフランスで襲撃を受けるという事件が時々発生している。
この問題を2年前から訴えていたのは、スペインで最大のワイン生産業者ガルシア・カリオン(J.Garcia Carrión)社である。この生産業者の名前は日本のワイン消費者の記憶にないかもしれないが、同社のブランドのひとつ「Don Simón(ドン・シモン)」のワインやテトラブリックパックのワインだと言えば、消費者の記憶にあるはずである。
このブランドが同社の代表ブランドとなっており、ワイン以外にジュース類も同じブランドで提供している。
ガルシア・カリオンは1890年の創業で、年商9億3000万ユーロ(1200億円)、155か国に輸出している。同社にとって米国と日本は重要な市場である。
ガルシア・カリオンのワインは価格競争力では断トツの力をもっている。ところが、スペインからワインをバルクでフランスの業者が輸入して、それをフランスでボトル詰めして、あたかもフランス産ワインであるかのようにして販売している「偽物フランスワイン」には勝てないとガルシア・カリオンは指摘している。
消費者は中身のワインよりも、フランス産でしかも価格が安いということに重要度を置くからである。
この偽物フランスワインが急増しているのも理由がある。それを同社CEOのホセ・ガルシア・カリオン氏が次のように説明している。
「2000年には1億リットルのバルクワインがスペインからフランスに輸出されていたが、最近は年間ではフランス向けだけで5億リットル輸出されるようになった。スペインは世界に12億リットルのバルクワインを輸出している。その主要産地はラ・マンチャとエクステマドゥラの二つの地方だ」
と述べた。同氏は更に説明を加えて、
「その5億リットルの内の80%がスペイン産であるにも拘らず、あたかもフランス産であるかのようにカムフラージュされているのだ」
と指摘して、
「例えば、ボルドーでボトル詰めして『Bottled in Boudeaux』とラベルに記載して販売される。原産地証明(D.O)は記載されていない。が、原産地はスペインだとも記載されていない。だから、それが中国のスーパーマーケットの店頭に並ぶと、あたかもフランス産という印象を与えることになる」
と語った。
フランスの「偽造取り締まり、競争、消費委員会(DGCCRF)」が2016・2017年に調査を進めた結果、スペイン産ローゼワインが700万リットル以上、偽造されてフランス産として販売されていたことが判明しているという。それはボトルにして凡そ1000万本に相当する量だという。
2016年はローゼワインがスペインでは1リットル34セント(44円)であったのが、フランスでは75(97円)から90セント(117円)が相場となっていたことが一番の理由だとされている。
しかも、スペインワインが価格と品質において印象的なほどにバランスが取れているというのは、国際的にワイン業界で良く知られていることである。
この様な事実が明るみになって以来、フランスの関係当局ではラベルが正しく明記されているかどうかコントロールするようになっているという。
7月10日にも、スペインワインをあたかもフランス産であるかのように偽っていた業者が逮捕されたことが公になっている。
スペインのバルクワインの需要が伸びることによって、スペインではワインが不足するという現象が起きている。その為、ガルシア・カリオンのように大量のワインを必要とするワイン生産業者は自社のぶどう畑で産出するぶどう以外に、国内のバルクワインだけでは不足で、態々チリからバルクでワインを輸入せねばならないという事態も生じているという。
ガルシア・カリオンは40年前にバルクワインでの販売を止めて、それ以後はボトルワインとテトラブリックワインだけを生産販売している。
今回起きている現象は、オリーブオイルでも同様の問題が存在している。スペインで生産されたオリーブオイルがイタリアにバルクで輸出されて、イタリアではそれをあたかもイタリア産であるかのようにして販売しているという問題である。
イタリアはオリーブオイルの販売量に比較して生産量が少ないということは良く知られていることで、その不足分の大半を賄っているのがスペインのオリーブオイルである。