米国接近に揺れる北朝鮮内部

高 永喆

国内の事業所を指導する金正恩氏(朝鮮中央通信より:編集部)

北朝鮮の体制を支える二本柱は反米主義と反日主義である。金日成は日本帝国と戦った抗日戦争の英雄であり、米帝国と戦った抗米戦争の英雄だと宣伝する。外に敵を作って国民の敵愾心を高め、国民結束を図るのが独裁政権の常套手段だ。従って、北朝鮮の最高権力機関は労働党の組織指導部と宣伝扇動部になっている。

金正恩労働党委員長は6月12日の米朝首脳会談を控え,5月17日に軍部のトップ3人を更迭。さらに、6個軍団長を首にした。指導者不在中に起り易いクーデタを恐れてのことだ。また、金委員長は多数の側近を連れてシンガポールに行った。それは万が一の場合、亡命政府を視野に入れた行動だったと言える。

これらは北朝鮮国内に非核化への反対グループが根強く存在することの証しである。

金委員長はクーデタや海外で暗殺の危険性を覚悟し、ホテル代と航空機まで中国から面倒をみてもらってまで、シンガポールに行った。それは、国際制裁の打撃に加え、米国の軍事行動が迫る中、自らの命の危険を感じたからだろう。そして、米朝首脳会談を通して何とか米国の軍事行動開始の火種は消し止めたわけだ。

しかし最近、北朝鮮では再び反米キャンペーンによる瀬戸際外交の兆しが現れている。労働新聞によると、北朝鮮は核保有国であることを再び強調している。金委員長はトランプ大統領の親書を持って訪朝をしたポンペオ米国務長官会わず、トランプ氏宛ての親書でも非核化について一切言及せず、核保有国であることを強調している。これは国内で非核化をめぐって賛成・反対の勢力が拮抗していることの反映だろう。

戦火を交え恨みの募る敵、米国と急接近することに戸惑う国内世論をいかに説得するのか。これこそ金正恩政権が直面する最大課題であろう。今後、米国の対北政策はなるべく血を流さないソフトランディング路線で、北の内部崩壊の環境造成に力を入れるだろうと予想される。

米中央情報局(CIA)は既に、北朝鮮国内の反政府組織づくりを完了したと言われる。
過去、ルーマニアの独裁者チャウシェスク大統領は国民と軍部によって公開銃殺された。独裁者への強制的な忠誠は面従腹背を招き、いつでも裏切られるわけだ。現在、北朝鮮では携帯電話が500万台も普及している。時間が経てば経つほど、金正恩政権は体制維持の限界を迎える可能性が高まると考えざるを得ない。

(拓殖大学主任研究員・韓国統一振興院専任教授、元国防省専門委員・北朝鮮分析官)

※本稿は7月24日、『世界日報』に掲載したコラムを筆者が加筆したものです。

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