20日の夜に日銀が長期金利目標などの柔軟化を検討していると報じられたことで、日本の債券市場を中心に激震が走った格好となった。
週明け23日の日本の債券市場では、10年債利回りが0.090%まで上昇した。0.1%を超えることはなかったものの、日銀は予報策として指し値オペを通達した。0.11%を試してからかとみていたが、その前に日銀は動いて0.11%以上の10年債利回りの上昇は許容しない姿勢を示した。ただし、日銀のコントロールには含まれていない超長期ゾーンの利回りは大きく上昇し、40年債利回りは先週末比0.1%の上昇となった。
日銀の政策微調整観測報道は外為市場にも影響し、ドル円は大きく下落したが、こちらはトランプ大統領のドル高への批判も大きく影響していたことで、日銀に関する報道だけが影響したわけではない。
そして、意外にも日本の国債利回りの上昇が、米国や欧州の国債利回りにも影響を与えていた。米10年債利回りはなかなか2.9%台に乗せてこなかったが、23日には2.95%とあっさりと2.9%台に乗せてきた。トランプ大統領がFRBの利上げを牽制したものの、FRBの利上げ継続の姿勢に変化ないとの見方も押し上げ要因となったようだ。ただ、これまでの動きとやや異なるところもあり、日本の影響を受けたことも確かであろう。これにより米10年債利回りは3%が再び視野に入ってきた。
実際には日銀の緩和策の柔軟化は観測段階であり、決まったものではない。しかし、時事やロイターの報じ方などからみて、そちらの方向に動くであろうとみられる。リフレ派の反対もあろうが、政策委員の多くは異次元緩和の累積的な副作用を懸念していることは確かであり、何かしら手を打つ必要性は感じていたものとみられる。
それでは実際にETFの買入などを含めた柔軟化政策が、債券市場や株式市場、外為市場にどのような影響を与えるであろうか。機能低下が著しかった債券市場はその機能回復が見込まれる。多少の金利上昇となることで、これは金融機関にとっても好影響を与える。現実にここにきて銀行株などが買われている。
日本の株式市場は、日銀のETFの買い支えがなければ急落してしまうのであろうか。むろんそのようなことはない。日本の景気が最悪の状態にでもあれば別ではあるが、よりファンダメンタルに即した株価形成がなされ、むしろ歪さが解消に向かう可能性がある。
外為市場に対しての影響も日本の長期金利が0.3%程度上がる程度で、大きな影響が出るとは思えない。日米の長期金利の差は3%程度ある。たとえ0.2%や0.3%程度日本の長期金利が上がったところで、いわば誤差範疇となる。トランプ大統領が批判してもFRBの利上げは継続するとみられ、日銀の微調整程度では日米金利差が一気に縮小することは考えづらい。金利差という側面からは円高圧力は限られよう。
FRBが正常化を行い、ECBも正常化に向けて準備をしている。日銀は正常化というよりも現在の政策を副作用を軽減しながら継続するための柔軟化措置を検討している。これにより、例えば新興国市場などにどのような影響を与えるのか。すでに日米欧の中央銀行による非常時対応の過剰な金融緩和策は必要なくなってきており、過剰流動性が後退するのはやむを得ない。それでもFRBも買入資産の縮小には慎重であり、日銀も買入ペースを落とすにしても、資産買入は続けている。ある程度、新興国市場への影響は出るかもしれないが、世界経済に大きな打撃を与えるほどのものではないとみている。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年7月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。