7月6日のオウム真理教死刑囚の執行後に死刑制度についてブログを書いた。日本は死刑制度を持たない国際刑事裁判所(ICC)の最大資金拠出国である、という書き出しの拙稿も『フォーサイト』さんに掲載していただいた。すると掲載の翌日に、さらに6人の元幹部の死刑が執行された。
日本は死刑制度を終身刑で代える制度に反対しているわけではないので、国内で死刑制度を持つことと、欧州諸国が中心になって運営されているICCの最大資金拠出国であることとの間には、何も矛盾はない。
むしろ自信をもってICCのために国際的に動いたらいいと思うのだが、お金を出しているわりには人も口も出せていないだけでなく、そもそも日本国内でICCの存在を知っている人はほとんどいないのではないかという惨状は、なんとかしたい。
アジア諸国のICC加入率は、著しく低い。そこにフィリピンが脱退を宣言している現状である。ICCの「普遍性」は、相当程度に日本や韓国(現在ICCの締約国会議長を担っている)によっても支えられている。
AU(アフリカ連合)がICCに加盟しているアフリカ諸国に脱退を促す決議を出したのは、2016年末だ。その後、ブルンジが脱退しただけにとどまっているが、スーダンなどの捜査対象国だけでなく、ICCの外から国力を強めるエチオピアが強くICCを攻撃する立場をとっており、締約国であるはずのケニアも批判的な声を隠そうとしない。東部アフリカは反ICCブロックである。南アフリカの態度に左右される南部アフリカのICCへの姿勢は、揺らいでいる、といったところか。
私は今、このブログを、ナイジェリアで書いている。ナイジェリアは、西アフリカの覇権的な地位を持つ人口1億8千万の大国だ。現在ICCの裁判所長を出している。
ナイジェリアが親ICCであることも手伝って、西アフリカは明白な親ICCブロックだ。西アフリカは欧州に近いことが、欧州的な価値観の共有につながっていると言える。もっともビアフラ戦争の記憶もあり、ナイジェリアに対して欧州人は一般に厳しい目を向けることが多いようにも思う。
資源も豊富で、2015年からは原油価格下落で停滞したが、それまでは驚異的な経済成長を記録していた。すでに昨年から回復基調に入ったナイジェリアは、一人あたりGDPでは3,000ドル前後とはいえ、国単位では世界30位のGDPを誇る大国である。私が専門とする国際平和活動でも、際立った存在感を持つ。
ナイジェリアは、華々しい経済投資攻勢をかける中国に対して、堅実な姿勢をとっている印象もある。2005年、日本が国連安保理常任理事国入りをかけて真剣な外交努力をしていたとき、中国の圧力で他のアフリカ諸国が次々と離れていく中、最後まで日本を支持し続けてくれたのが、ナイジェリアだ。
ボコ・ハラムの問題を北部に抱え、ギニア湾に海賊問題を抱える。中国との適正な距離感を保つためにも、価値観を共有しているはずの日本への期待は小さくない。
…..憲法9条があるから、日本人はアフリカ人よりも卓越している、アフリカ人は日本を模倣すべきだ…..、などと大真面目に信じるような態度は、もはや時代遅れという言葉もあてはまらにくらいに昭和的だ。
日本の戦略的なアフリカへの関与を話すことができる場所が、日本国内にももう少し欲しい。
編集部より:このブログは篠田英朗・東京外国語大学教授の公式ブログ『「平和構築」を専門にする国際政治学者』2018年7月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。