国会が終わってから、政界ニュースは、自民党総裁選や、杉田水脈氏によるLGBT問題といった国政の話題が中心だが、きょう(8月2日)で、小池都政が就任2年、任期4年の折り返しを迎えた。昨年衆院選での小池氏の自爆により、都民の大半が関心を失って久しいが、朝日新聞が節目に合わせ、小池都政に関する世論調査を実施。この内容が、ある意味、「衝撃的」な内容だったので目を丸くした。
小池知事で都民は「都政が悪くなったと思っていない」
もっとも驚いたのは、この2年で都政は「よくなったか?」という問いに対する都民の回答だ。「よくなった」が17%にとどまったのは想定内として、「変わらない」がなんと最多の69%。そして「悪くなった」が11%しかいなかったというのだ。
さきごろ安全宣言という名の“幕引き”をみせた豊洲市場問題での大混乱はいうには及ばず、ネット上の悪評を考えれば、あきらかに舛添時代より悪化したとしか思えない。あまりの「落差」に言葉を失ってしまった。私ですらこうなのだから、自民党をはじめアンチ小池勢力の受けた衝撃は、違う意味で小さくなかったと思う。ある会派の都議は「それだけ都政から世間の関心が失われてしまった」と嘆いていた。以前も書いたが、実際衆院選後、マスコミ露出が加速度的に激減しており、その影響も大きいだろう。
小池知事の支持率自体は49%。7割を超えていた昨年春からは明らかに失速しているが、際立って悪いわけではない。特に男女別で、女性が56%と、男性の42%を超えており、都知事選後から指摘されていた「男たちに挑むジャンヌダルク」的な構図が、根強い支持要因となっている可能性はある。
もちろん、小池都政が窮地に瀕していることに変わりはない。同じ調査で、与党会派の都民ファーストの会に対しては73%が「期待していない」と答えており、衆院選後の都内の区議・市議選で惨敗が続いている現状を裏付けている。おそらく2021年夏に予定される次回の都議選で、都ファは壊滅的に惨敗し、都議会自民党が再び復権するとみていい。
仮に小池氏がオリンピック直前の次期都知事選で再選したとしても、そのあとの議会運営はかなり苦しくなるのは必至だ。自民党としては真綿で首を絞めるように、長い時間をかけて知事をじわじわと追い込んで、なにかの弾みで辞職することも期待しているのかもしれない。しかし、それだと知事と議会が対立し、都政が無用に混乱したり、結果として高齢化対策などの重要課題が停滞する可能性もある。
なぜ自民党支持層が知事を支持する?分析が必要
都ファに代わる第1党候補が都議会自民党である以上、知事選から真剣に「政権再交代」を目指しておくのが筋だと思われるが、朝日の調査では、自民党支持層の54%もの人が小池氏を支持している。また、JX通信社の昨年から数度の調査でも、自民党の都政の支持率は国政と比べて半数程度に低迷する「国高都低」の状態がでている(1月の調査)。
朝日は都政の政党別支持率は出してないが、自民支持層の過半が小池支持という結果から推測すると、JXと似た傾向が出る可能性が高い。このままだと、どこの政党も都政に関しては都民からそっぽを向かれるという不健全な状態が形成される。
それは投票率の低迷であるだけでなく、都政・都議会に「都民から注目されている」という緊張感を失わせ、それが何年も積み重なってしまえば、税金の無駄遣いや非効率な行政・議会運営、最悪の場合は汚職のような不祥事の温床をつくることにもつながりかねない。
自民党は、「ポスト小池都政」を目指すのであれば、まず知事に「強奪」された、自分たちの支持層を取り戻すにはどうすればいいか、特に女性の支持が離れてしまった理由を徹底的に分析することを含め、もう一度、戦略を見直さなければなるまい。気になるのは、都知事選や都議選で敗れたあと、なぜ都民の支持が離れてしまったのか、総括や分析を虚心坦懐にしたという話が聞こえてこないことだ。
多少お金をかけてでも都民に政策づくりのためのマーケティング調査をして、戦略を立てる価値はある。民意の集約は、お祭りに参加することだけではない。
私は昔から都知事選の歴史を研究するのが好きで、2年前の拙著『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』でも分析の一端を披露したが、1991年の保守分裂選挙の時まではコアの組織票は、無党派に勝つことができた。しかし冷戦が終わり、55年体制が崩壊して無党派層が増加。1995年、選挙活動をやらない青島幸男氏に敗れたことが大きな転換点だった。その4年後も、明石康氏を推した自民党は石原慎太郎氏に敗れている。
人材の多様化を進め、世界を見据えた都市戦略を描けるか
その意味では、2016年の小池氏の圧勝は、20年前から下地ができていたともいえる。有権者の価値観、ライフスタイルが多様化していくなか、町内会やお祭り、街場の伝統的産業の中小企業といった、旧来型の支持層との関係強化に注力するだけで十分だったとかいうと、答えはおのずと明らかではないのか。
「安倍政権は支持するけど、都政の自民党はいまいち支持できない」といった層は、どういう認識があり、政策ニーズがあるのか。地域のお祭りに参加しなそうな、いかにも都市型の生活を送る安倍政権支持者(=新都民)は、経済・金融政策への関心は高い。都ファのサイトでは公約で、国際金融市場への復活、自動走行やドローンなどの未来実験都市といった項目を盛り込み、自己採点ながらその達成度もサイトで公開している。
一方、都議会自民党のサイトは、選挙時の配布資料や過去の都知事への提言集をPDFでダウンロードする必要がある。提言集は中身がそれなりに細かく、「東京国際金融センターの実現に向けて、金融分野で活躍できる高度専門人材の育成」といった内容も触れているが、問題は、長期ビジョンのサイトもあるのに2015年3月で更新がストップしている点だ。つまり、舛添都政時代のままでその後の変化を踏まえていない。
公約のアップデートは進めるとして、もちろん、選挙参加にあやふやな「新都民」にいきなり軸足を置くのは難しいだろう。しかし、たとえば、国政の自民党支持層、無党派層に好まれる人材をもっと増やす工夫はあっていいのではないか。NPO運営経験、女性、帰国子女、障害者、それこそいま話題のLGBTも含めた多様性、国際性をもたせ、候補者スペックで都ファに負けない優秀な若手を増やす必要がある。
メディア戦略の見直しも重要だ。都ファは音喜多都議が離党し、議員たちに情報統制を敷いていることもあって、発信力が低下しているいまはチャンスがある。しかし、現状、TOKYO MXやAbemaTV、ネットメディアでの発信で目立つのは川松都議くらい。先日のカドカワ・ドワンゴ川上量生氏との「対決」でネットでは注目されたが、もしも川松氏がいなければ、このイベントすらなかっただろう。
川上氏の問題は正直、川松都議のブログを読んでいなければ私を含めて問題の存在自体、気づかなかった都民も多いのではないか。(ちなみにアゴラ転載時のタイトル変更の件ではお騒がせしました…汗)。
いまや40代でも新聞離れが進んできた中で、地上戦だけではリーチできない、階層への訴求は必要だと思う。
国政の自民党下野から学べるか
全体としてみると、国政の自民党は2009年の政権転落後、率直に敗因を分析し、人材に関しては落選で「古狸」がいなくなったことを逆手にとって、公募で世代交代をしっかり進めた。2012年初当選組には、パワハラとか不倫とか問題のある若手議員も数人いたが、全体としては、のちに小泉進次郎氏を支える中核メンバーたちのように、民間や官庁で経験を積み、政策立案力の高い人材が集まった。
メディア戦略についても、世論解析のプロを招いてテクノロジーも活用。ネット時代にふさわしいものに一気に変えた。いまや党本部のネット発信力は、モリカケ追及に狂う新聞テレビへのカウンターとして安倍政権を支えるまでになっている。
国政の自民党が下野後の3年3か月をどう過ごしてきたか。次の都知事選までの2年、あるいは都議選までの3年を展開していく上で参考になることは多い。ポスト小池都政をどう作るつもりなのか、いまはドライな目でみている都民からもいずれ審判を受ける際に、その判断材料となろう。