肌感覚で考えるサマータイム:欧州での生活経験から

与謝野 信

2020年東京五輪・パラリンピックの暑さ対策として、大会組織委員会がサマータイム導入を求め、政府が検討することになったため、突然の「サマータイム是非論争」が始まりました。

今度は本気?サマータイム導入 五輪まで2年しかないが (朝日新聞デジタル)

すでに多くの識者の方々が標準時を1~2時間早めるサマータイムの経済・健康面への影響などを過去の調査やエビデンスを基にした論考を発信しておりますので、そこらへんの分析はあえて割愛して、私自身の欧州での生活経験に基づいたあくまで個人的な肌感覚(エビデンスなし)のサマータイムに対する考えを書きたいと思います。

純粋に個人的な経験から言うと私はヨーロッパのサマータイムが大好きです。ロンドンで3年過ごした後に日本に帰国する際にイギリスの何が一番好きでしたかと聞かれた時に「イギリスの初夏です」と答えた記憶があります。とにかくパリやロンドンの初夏は過ごしやすいしサマータイムのおかげで日は長いし夏はとにかく楽しい。

イギリスもフランスも学校は6月か7月が学年末で9月から新学期です。6月は学生にとっては学年末試験の季節です。外は明るくピクニック日和が続いているのに部屋や図書館にこもって勉強しなければいけないので、学生をしていた頃は随分と悲しいシステムだと思いました。もっとも日本のように受験が冬の一番寒くて風邪もひきやすい季節というほうが受験生にとっては過酷かもしません。

ヨーロッパで体験した限りでは1時間のサマータイムは生活リズムが崩れることもほぼなく、今では時間変更時の社会の混乱などほとんどなかった気がします。

夏本番になると学生は2~3ヶ月の夏休み、社会人も2~3週間会社を休めてバカンスに行きます。今年は例外的に酷暑のようですが、通常だと真夏でもそこまで暑くなく、そもそも家にエアコンのない家庭が多いです。日本と違って気温が高くても湿度が低いので体感の暑さは大したことないです。お金持ちは別荘に行くようですが、そうでなくともバカンスのための長期滞在が可能な施設が多くあるので、多くの人が長期休暇を楽しめます。8月の休みの間はサマータイムの影響で夜の9時ぐらいでもまだ明るいので、外で遊べる時間が多く取れます。

パリもロンドンも冬は日照時間も短く、雲や雨がちでとにかくどんよりしている印象があります。秋冬も美味しい食事やらクリスマスやら楽しいイベントもたくさんあるのですが、やっぱり精神的には春夏で太陽の光を貯金して秋冬に備えるといった感じです。

  • 日中、外で過ごせるくらい快適な夏
  • 国民の多くが享受できる長い夏季休暇
  • 暗くて寒い秋冬に備えるための春夏の精神的な日光貯金の必要性

といった条件が揃うとサマータイムは実に効果的でヨーロッパの素晴らしい夏を作り出す一つの重要な要素となります。だから私はヨーロッパの夏とサマータイムが大好きです。

このようにサマータイムに好印象を抱いている私は実は以前は日本におけるサマータイム導入推進派でした。しかし落ち着いて日本の夏を考えてみると、上記の3つの条件を全く満たしていないわけです。

そもそも一番最初の「日中外で過ごせるくらいの快適な夏」という条件が満たされていないですよね。むしろ日本では盆踊りなどの納涼イベントは日没後少し気温が下がってから開催するのが良いわけです。スポーツ観戦もナイターのほうがありがたい。ビアガーデンもしかりですね。なので、サマータイム導入して日没時間を遅らせてしまうのは逆効果になってしまいます。

むしろ日没時間早めてもらって、より涼しいアフターファイブのほうがありがたいかもしれない。今回検討されている2時間のサマータイムだと、6時から7時の帰宅時間が実質4時から5時の日没前の気温が高い時間帯になるわけで、これでラッシュの電車に乗るのはなかなか厳しい気がします。

現在ではサマータイムを日本で導入することに私は否定的です。2週間程度の夏休みをお盆の季節に集中させることなく取得できるような働き方の変革など「夏をより快適にする」対策・政策は他に色々あると思います。そしてなにより、もっと「快適な休みのある人生」というものを国民全員が追求しても良いと思います。

確かに厳しい夏にもストイックに働く日本人の勤勉さは素晴らしいと思いますが、もう少し自分たちを甘やかしても良い時代にきていると思います。フランスの会社で長く勤務していましたが、社員が夏に長期休暇をとるので、8月は出社している社員数が随分減り、引き継ぎなどできていないなど会社全体の仕事効率は下がります。しかしそれもふくめて社会が許容する、国も制度を改善するといったことの積み重ねで、夏季の快適さが産み出されている気がします。

日本でのサマータイムの導入は難しいと思いますが、これを機に社会全体が享受できる「快適な夏」を制度面から支援するような機運が高まることを期待します。


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編集部より:このブログは与謝野信氏の公式ブログ 2018年8月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、与謝野信ブログをご覧ください。