米中覇権戦争③米国の国防予算80兆円の衝撃

松川 るい

White House/flickr(編集部)

おはようございます。次こそ朝鮮半島について書いてみようと思っていましたが、ここ数日、米中関係で気になるニュースがいくつも飛び込んできてしまいました(それに、結局、朝鮮半島だって米中関係がどうなるかに左右されるものですから)。

まず、何と言っても、米国国防予算80兆円(7160億ドル)成立というものです。中国との覇権争いに絶対に勝つという強い決意の表れです。前年度7000億ドルからの増額。オバマ時代は約60兆円(5239億ドル)だったことを考えれば、トランプ政権になっていかに米国の国防費が強化されているかわかります。しかも、議会が増額承認とは中国の国防予算は18兆円(公表数値ではありますが)。ちなみに日本は5兆円です。

ステルス戦闘機f35を77機導入する他、核戦力の近代化やミサイル防衛の強化。海軍の戦闘艦艇13隻を新たに建造。米国予算は、国防権限法で成立しますが、今回の国防権限法の注目点は、国防費増額だけでなく、中国との対決を鮮明に意識したいくつもの内容を含んでいるようです(まだ原文を読んでいないので各種報道に基づいてですが)。

まず、対米外国投資委員会(CFIUS)の権限強化、環太平洋合同演習(リムパック)への中国の参加禁止。さらに、台湾との防衛協力の強化、軍事演習の促進、台湾旅行法に基づき、米・台湾防衛当局者の相互訪問を促進。さらに、在韓米軍の兵力数について2万2千人を下回らないということも盛り込まれた由。米朝首脳会談後、在韓米軍の縮小方向かとの懸念が生じたわけで、これを一定程度払拭するということでしょうが、2万2千人までは減らすという意味でもあるでしょう。

高官旅行法改正の時は、台湾との関係強化について、どの程度米国は取り組むつもりなのだろうと思っていましたが、かなり真剣にやるということだと理解しました。台湾は、第一列島線上の重要な位置を占めていますし、インド太平洋戦略上も重要です。

もう一つ注目したいのが、対米投資から中国を締め出す新法(外国投資審査近代化法)にトランプ大統領が署名したことです。ハイテク分野で覇権争いを繰り広げる中国機用の技術獲得を一段と制限し、AIなどの米企業の先端技術を守るのが目的です。CHIUS(財務省や国防省が管轄する独立組織)が外国投資を審査でき、安全保障上のリスクがると判断すればこれまで対象と明示してこなかったインフラや不動産分野への投資も差し止めることができるようです。実際、中国勢の対米直接投資は2018年度前半期で前年度から9割減(!)と激減しています。

中国を念頭においた外国投資規制や外国人による土地所有規制は、豪州、NZにもあり、仏や独でも導入の動きがあります。グローバル経済の中で、安心して外国との取引を活発化させる上でも、日本にも導入が必要だと思います。

一方、中国は、鉄道投資を1兆円増加し、四川省とチベット自治区を結ぶ鉄道建設などに投資するようです。鉄鋼需要の受け皿を作るとともに、貿易戦争を受けて内需拡大を意図したものではないかとみられています。中国は、米国の意図がただの貿易戦争や投資規制ではなく、中国による覇権交代を米国が決して容認しない、そのために、中国を今叩きに来ているといことを十分理解していると思います。

現在、中国は、北戴河会議という外交方針についての政治局員と党首脳OBの会議を行っているようです。中国(習近平)の強国路線と現実の力の増大が、米国の国家安全保障戦略(NSS)という反応を引き出し、今回の貿易戦争やインド太平洋基金設立、果ては、中国を主として念頭においた国防費増や外国投資規制などに繋がっていることについて、つまり、中国による覇権交代を許さないとする明確な強硬路線に転じたことについて、どのように対処していくか、過去の歴史における様々な例も念頭におきながら、考えているところでしょう。

一番確実な対処方は、中国が覇権を目指さないことです。しかし、それはこれだけ中国の力が強くなった今、難しいことかもしれません。今更、トウコウヨウカイに戻るといっても、中国2049をあれだけ高らかに宣言した後なので、軌道修正のハードルは高いです。ひとつ、今回の1兆円の鉄道投資のように、海洋ではなくユーラシア大陸方面に力を入れて、基本的に大陸国家として生きていく道を選択し、米国の海洋戦略と直接ぶつからない方向に軌道修正するということは一理あるでしょう。

なお、経済面についていえば、米中は今のままで貿易について総力戦をすれば(高関税合戦をすれば)、中国の対米輸出が米国の対中輸入の3倍近くあるのだから、米国の方が有利です(中国は途中でタマが尽きるわけです)から、中国としては、輸出先の多角化と、内需を拡大して輸出依存度(今もそれほど高いわけではありません)を減らすなど、様々な方策を考えていくことでしょう。こちらの方については様々な対処方が考えられます。変化するエコシステムの中で経済は道を探します。

でも、米中間の対立の本質は、「次なる世界の覇権をめぐる戦争」だということです。ここにはゼロサムの要素があります。覇権を分け合うことに成功したのは米ロの冷戦ぐらいではないでしょうか。「成功」と呼ぶのはおかしいかもしれませんが、覇権を分け合う状況が一定期間続いたという意味では。しかし、最後はソ連崩壊という形で決着がつきました。

中国は違う選択肢があると思います。プレデターのような対外経済政策をやめ、むしろ、既存の国際秩序の責任ある担い手として欧州やアジア諸国などとの連携を深めることです。そして、海上覇権について米国の優越を認め一定程度本気であきらめることです。まあ、それができれば苦労しないんだよ、と中国は思うでしょうが。

日本が先の大戦で唯一勝つことができた道は、結局、歴史を振り返ってみれば、「戦わないこと」そのために必要であれば満州を平和裏に先に放棄する(門戸開放する)ことだったわけですから。でも、人間というのは、わかっていてもできないから、歴史は繰り返すのでしょう。


編集部より:このブログは参議院議員、松川るい氏の公式ブログ 2018年8月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、「松川るいが行く!」をご覧ください。