大手クレジットカード会社JCBの2017年度の調査結果によると、日本人は一人平均3.2枚のクレジットカードを持っている。これを見ると、日本もカード社会になったように見えるが、日本のキャッシュレス化率は世界の主要国がおおむね50%~90%なのに比べて20%以下と極端に低い。
その大きな理由の一つが、カードが使える店が少ないことだ。カードで財布が膨れ上がっているにもかかわらず、お店でカード支払いを受け付けてもらえないために現金払いをしている日本人の姿が浮かんでくる。このため政府・経産省もカード利用可能店舗を何とか増やしたいと思っているようだ。
しかし、前回の記事でも述べた通り、お店を経営する側にとってみれば売り上げの数パーセントをカード会社に持っていかれるクレジットカード支払いはできれば避けたい。
その一方で、日本のクレジットカード会社は、厳しい競争の中で既に手数料率をかなり引き下げてきており、もう限界に近いことが問題だ。
具体的に数値例で説明しよう。本年4月に経産省が「キャッシュレス・ビジョン」という文書を公表したが、この中で加盟店が支払う手数料の例として3.24%という料率が書かれている。この料率を前提として、仮にある商店の月間の売上が50万円あり、そのうち10万円がクレジットカードで支払われたものだと仮定すると、クレジットカード会社はこの店から月に3,240円受け取る。
しかし、この3,240円のうち加盟店を開拓・管理するカード会社(アクワイアラーと呼ばれる)が受け取るのは890円だけで、残りはカード利用者にそのカードを発行したカード会社(イシュアーと呼ばれる)と国際的なネットワークを維持・管理する国際ブランドに支払われる。
このためアクワイアラーであるカード会社は、この890円でカードシステムの構築・運用や加盟店開拓などのコストを全てをまかなわなくてはならない。
とりわけアクワイアラーにとって重い負担となっているもののひとつが、加盟店に設置するクレジットカード決済端末代である。最近端末の価格はかなり下がってきたといっても、5万円から高いものでは10万円をゆうに超えるものまである。本来端末は加盟店側が買い取るものだったが、厳しい競争の中で加盟店へは無料でレンタルするようになってきている。
端末代が仮りに5万円としてもこれを890円で回収するには56か月(約4年半)かかる。端末の保守期限は普通5年なので、原価を回収する頃にはまた新しい端末に交換しなくてはならなくなる。これではカード会社は何のためにビジネスをしているのかわからない。最近は小規模店舗向けにスマホやタブレットにカードリーダーを差し込む安価な端末も現れてはいるが、様々な理由で主流になるには程遠い状況だ。
さらに最近は、カード番号の漏えい等に対するセキュリティーの強化が国際ブランド及び経産省から強く求められており、このためのコストがさらにカード会社に重くのしかかっている。
こうしたわけで、カード会社がクレジットカードの手数料率をこれ以上大幅に引き下げることは期待しがたい。そして、そうであれば加盟店数の急激な増加は見込めないことから、クレジットカードが日本のキャッスレス化の主役になることは難しそうだ。