アメリカ人が、引っ越しをしなくなった――と言われて久しいですね。 確かに、過去1年間で引っ越しを行ったアメリカ人は2017年に3,365万人と、全米人口の10.6%に過ぎません。1985年には19.6%だっただけに、その著しい低下に目を見張ります。
(作成:My Big Apple NY)
特にITバブル崩壊時の2001年、金融危機が発生した2008年に大きく落ち込み、以降も低下基調をたどります。労働市場の逼迫により、現在の居住地から離れずに職探しができる、あるいは職を確保でき、引っ越しするアメリカ人が減少しているというウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙の分析は、その通りでしょう。職探しのために引っ越ししたアメリカ人が2017年に14.7%減の45.3万人と統計を開始して以来で最低で、引っ越ししたアメリカ人全体の1.3%に過ぎないのは、まさに好調な労働市場の証左とも解釈できます。
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また、子供の教育環境などを踏まえ、現状維持を望む世帯主が多くなったのかもしれません。昇給という“量”より“質”を求める傾向の強まりとも考えられます。 就職・転職・転勤のために引っ越ししたというアメリカ人も、前年比9.1%減の346.2万人でした。ただし、過去1年間に引っ越しした米国居住者全体のうち9.9%と過去最高をつけた2016年の10.8%から低下したとはいえ、統計が開始した1999年以降の平均値の9.5%を上回っていました。つまり、就職・転職・転勤は好景気時に増加しやすいとも考えられます。過去をみても金融危機直後を筆頭に、成長鈍化局面では減少していました。直近は減少したとはいえ、就職・転職・転勤の引っ越し全体の割合は高水準にあり、好景気が続く現状を踏まえると、今後再び増加する余地を残します。
(作成:My Big Apple NY)
しかしながら、引っ越しの足枷はやはり労働参加率の低下でしょう。こちらでご紹介した通り、働き盛りの男性の労働参加率は低迷を続け、今働ける働き盛りの男性の非労働力人口も、高止まりしています。引っ越しするにあたって、NY市では①前金、②ブローカー手数料、③保証料として2ヵ月分(最初の月、最後の月)――と日本と同様にまとまった資金が必要であり、簡単には引っ越ししづらいに違いなく、またミレニアル世代の男性で親と同居する割合が上昇した動きとも整合的です。
こうした男性陣は、アメリカ人全体の引っ越しの重石となっているに違いありません。 もちろん、この他にミレニアル世代の特徴も存在します。ピュー・リサーチ・センターの調査では、調査イヤーの前年に引っ越しをしたと回答した25~35歳は、ご覧の通り。
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他世代が25~27%に対し、20%に過ぎません。労働参加率が低ければ親許から離れられないわけで、やっぱり労働参加率に関わってくると言えそうです。
(カバー写真:bluesbby/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年8月20日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。