トランプ政権は、通商拡大法232条を基にした自動車関税発動をめぐる調査内容の公表時期を当初予定の8月中から先送りする方針です。ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙のインタビューで、ロス商務長官が明らかにしました。トランプ政権は、自動車・部品に20〜25%の関税を発動すると発言していたものの、米欧首脳会談やNAFTA再交渉の進展を背景に挙げています。
とはいえ、5月にムニューシン米財務長官と劉鶴・中国副首相が発表した中国の対米輸入増での合意を引っくり返した前歴を忘れてはならず、楽観は禁物。そこで気になるのが、徐々に広がりつつある価格への影響です。
7月の消費者物価指数に、既に現れていましたよね。中古車価格が前月比1.3%上昇し、月ベースの上昇率は、2010年1月以来で最高を示したものです。金融危機の最中、手頃な中古車に潜在顧客が流れるなか、低燃費車への買い替え促進策(キャッシュ・フォー・クランカーズ、最大4,500ドルの助成金支給)を実施した影響もあって、2009年7~8月に中古車価格が急騰していましたよね。あの頃に近いほどの上振れを遂げていたわけです。
(作成:My Big Apple NY)
中古車オークション大手マンハイムが提供する中古車価格指数も、7月に前月比1.5%上昇し136.9をつけました。指数は、統計を開始した1997年以来で最高を遂げています。
この背景の一つとされているのが、トランプ政権が振りかざした自動車・部品への関税発動懸念です。中古車オークション大手コックス・オートモーティブのジョナサン・スモーク首席エコノミストは「トランプ大統領が自動車関税に言及してすぐ、中古車価格が反応した」と説明します。トランプ政権が自動車関税発動をめぐり、調査を開始すると発表したのは、5月23日でした。とはいえトランプ大統領は6月開催のG7首脳会議の場やツイッターを通じ、繰り返し自動車関税発動を示唆したものです。7月の米欧首脳会談で少なくとも対欧州での自動車関税が棚上げされたものの、中古車価格を上昇にブレーキを掛けられませんでした。
それもそのはず。米系をはじめ自動車メーカーにとって問題は、欧州ではなくNAFTAや日本だからです。想像に難くないながら、米国で人気車種ブランドを抱える自動車メーカーはスバルを除きNAFTAへの部品依存度は決して小さくありません。自動車メーカー別、OEMの地域内訳は、以下の通り。
(作成:My Big Apple NY)
中間選挙を控え、10月の為替報告書の公表前ながら中国やEUが為替操作していると非難する通り、トランプ政権の保護主義寄りトーンはアクセル全開といったところ。さらなる暴走を食い止めるためにも、22〜23日から再開する米中通商協議のほか、NAFTA再交渉やEU間との関税撤廃協議での進展が待たれます。
なお、中古車価格上昇には他に2つの要因が隠されています。1つはガソリン価格の上昇を受け、小型車の価格下落を一因に顧客が戻りつつあり、価格を押し上げたためです。自動車ディーラー大手エドマンズによれば、小型車(3年落ち)の価格は1〜3月期に前年比3.9%上昇しました。さらに、フォードが2車種を除くセダンの生産停止を発表したことも重なり、供給不足に追い討ちを掛けました。中古車価格は1〜3月期に2.2%上昇の1万9,657ドルと、過去最高を更新。新車販売台数が少しスローダウンしたとは言っても、力強い米経済と労働市場を背景に、米国の自動車市場はまだまだ巡航速度で前進しつつあります。
(カバー写真:QuoteInspector/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年8月21日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。