就活ルールを廃止して「大学入学」を就職の条件に

池田 信夫

経団連の中西会長が「就活ルールを2021年春から廃止する」と述べたことが話題になっている。この種の協定には拘束力がなく、規制と廃止を繰り返してきた。今は説明会は3月、面接は6月に解禁することになっているが、実際には3年生の年末から就活は始まっており、アンケート調査では5月までに内定を出した企業が4割近い。

3月1日の企業合同説明会(朝日新聞より)

経団連に入っていないIT企業や外資系企業は、通年で採用している。たとえばユニクロ(ファーストリテイリング)は1年生の4月から内定を出し、在学中は店舗でアルバイトをしてもらい、卒業と同時に店長にする。財界系企業だけ協定を守っていては、競争にならないという危機感があるのだろう。

新卒一括採用という日本独特の雇用慣行がなくなるのは、学生にとっても企業にとってもいいことだ。就活の前倒しは「学業のさまたげになる」という批判が強いが、それほど学業が重要なら、成績も確定しない3年生に内定を出すはずがない。

就活がどんどん早まるのは、大学で大事なのは学業ではなく偏差値だと、企業も学生もわかっているからだ。学歴は「私は**大学の入学試験に合格できる能力がある」というシグナリングの装置なので、大学の役割は(特に文系では)入試で終わっている。

しかし企業の総合職は「大学卒業」を条件とする場合が多いので、必要のない人まで大学に行く。これは無駄なので、大学卒業ではなく大学入学を条件にし、内定したら中退してもいいことにしてはどうだろうか。

そういう雇用慣行は、昔はあった。外交官には大卒の資格が必要なかったので、外交官試験に在学中に合格した学生は中退するのが普通で、外務省では「大学中退」がエリートだった(今は外交官試験が廃止されたので普通の公務員と同じ)。

企業もこういう方式にして、たとえば1年生の4月に退学して正社員になれば、年収300万円としても4年間で1200万円。大学の授業料は私立だと約100万円なので、合計1500万円ぐらい生涯所得が上がる。

そういう企業が出てくると、大学にとっては4年まで在学してもらうことが重要になる。たとえば偏差値が高くても退学率が高いと「役に立たない大学」というレッテルを貼られるので、職業教育をするようになるだろう。大学が企業研修を請け負ってもいい。

こういうと「企業の役に立つだけが学問ではない」という反発があるが、そういうアカデミックな学問はごく一部のエリートのものだ。圧倒的多数の学生には、もっと実用的な職業教育が必要なのだ。