国立がん研究センターが「がんの3年生存率」を公表した。すい臓がんは依然として低く、15%という数字だ。これは現在の標準療法の限界を示す数字である。
国立がん研究センターのウエブページには
(2)手術ができない場合や再発した場合の化学療法
手術ができない場合や再発した場合にも、化学療法によって、生存期間を延長したり、症状を和らげたりする効果が示されており、実施が推奨されています。 ・FOLFIRINOX療法 (フルオロウラシル[5-FU]+レボホリナートカルシウム+イリノテカン+オキサリプラチン) ・ゲムシタビン(ジェムザール)+ナブパクリタキセル(アブラキサン)併用療法 ・ゲムシタビン単剤治療 ・ゲムシタビン+エルロチニブ(タルセバ)併用療法 ・テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(TS-1:ティーエスワン)
とある。(一部割愛)
これらを推奨した結果、3年生存率が15%であるのは、推奨される標準療法がほとんど意味のないことの現れだ。がんは、早く見つければ治癒できるが、それが通用しない代表例が、膵臓がんである。(2)の場合、「正存期間を延長したり、症状を和らげる」と記載されているが、「それでいいのか、がん医療は?」。である。平然と「あなたは、平均的には3-6ヶ月です」と告げれば、それで責任を果たせるのだろうか?
米国の「ムーンショット計画」は、「がんを治癒させること」を目標にしている。この計画のもとに、治せないがんを治すための施策が検討されているが、日本では、依然として、標準治療という名の時代遅れの治療体系が大手を振ってまかり通っている。標準療法による治療体系の結果がこの程度ならば、患者さんには、新しい治療法を選択する権利があってもいいのではないかと思う。日本の現状では、それも極端に制限されているが。
こんなことを書くと、標準療法絶対主義者やその応援団は目くじらを立てて怒るかもしれない。米国にセカンドオピニオンを受けに行くことを推奨している医師は、それで心が痛まないのだろうか?日本国内で、この15%を30%、あるいは、50%にする新しい知恵がないままに、批判して、患者さんを海外に送り出すだけでいいのか、よく考えて欲しいものだ。さらに、私が某免疫療法クリニックと関係が深いから免疫療法を支援しているなどと、某新聞社のような作り話で批判した人もいたが、科学的な議論ができないのは日本の病根そのものだ。私は科学者として、免疫療法の将来を語っているのだ。治せないがんを治すための知恵も出さないで、欧米依存体質でいいのかと思う。
エビデンスの定義について何度もこのブログで取り上げているが、臨床試験(治験)に入るには、科学的なエビデンスが必須だ。基礎研究から何段階ものエビデンスを積み上げて、ようやく、患者さんに投与することが可能となる。日本のようなエビデンスの定義では、新しい斬新な治療法が日本から生まれることはない。CAR-T細胞療法など10年前までは批判を受け続けていたが、科学を評価できる人たちの後押しもあり、今や、なくてはならない治療法として確立されている。これが米国の強さであり、日本の欠点だ。
評価する目が鍛えられない限り、日本の科学研究費制度はザルのままだ。評価する人を評価するシステム、評価する目を鍛える教育制度なくして、日本の医学研究に陽が当たることはないだろう。真っ暗闇で暮らしている希望のないがん患者さんや家族に思いをはせれば、研究者コミュニティーも変わる必要を感ずるはずだと信じてやまない。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2018年9月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。