保険の見直し:財政破綻もありうる時代の新視点から

有地 浩

保険の見直しといっても、保険料を節約するためにあなたが掛けている保険の内容を見直しましょう、という訳ではない。

今、ファイナンシャルプランナーに保険の相談をすると、多すぎる保証額や、無駄な特約を削って、ライフステージに見合った必要最低限の保険を掛けることを勧めるのが普通だ。若いうちは掛け金の割りに保証額が大きい定期保険に入り、子供が独立して初老の夫婦二人になると、病気やケガの治療・入院費をカバーでき、どちらかが亡くなったときは若干の保険金が入るような、掛け金負担の少ない掛け捨ての保険をすすめたりすることが多い。

しかし、それだけでよいのだろうか。私もファイナンシャルプランナーの端くれ(CFP認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士)なので、私なりの考えを述べると、将来に向けてのファイナンシャルプランニングをするにあたっては、現在の経済環境がずっと続くという静的なプランニングをするのではなく、ある程度は将来の経済変動も考慮したプランニングをすることが必要だ。

例えば、物価はこれまでの失われた20年間で約1パーセントちょっとしか上昇していないが、その前の20年間では50パーセント以上上がっている。日銀が金融政策の目標としている2パーセントはなかなか達成できないだろうが、それにしてもこれからの20年間物価がほとんど上昇しないと想定してはいけない。

もちろん一旦立てた計画は定期的に見直しを行って、その時の本人の収入や家庭の状況、経済情勢を考慮して調整を行うが、それでは不十分なこともある。例えば、今後財政が破綻してその無理なファイナンスが行われたり、何かの理由で原油価格が再び高騰したりして、大幅な円安や深刻なインフレになることを全くの想定外のこととしておいてよいだろうか。

財政破綻に関しては経済学者の間で、財政破綻論者もいれば、日銀の超金融緩和だけでは不足なのでもっと財政支出をするべきだという者もいることは承知している。そのどちらが正しいかはいずれ歴史が証明するが、現実に自分の資産、自分の将来の生活を維持し、守っていかなければならない私たちにとっては、学者の議論を頼って資産をリスクにさらすわけにはいかない。学者が我々の資産が毀損したら償う資力を持っているとはとても思えないし、学者の言うことに乗せられた政治家も、何か起こった頃にはとうに政界引退か、他界している。

確かに将来を見通すことは容易ではない。だからと言ってただじっとしているのではなく、一定のバッファーを設けておくことが必要で、単に支出を切り詰めればよいというものではない。

そうした中で、我々の資産を守る一つの選択肢として、保険はもっと重要視されてもよいと思う。ぎりぎりの家計の収支の中で、将来の家計の破綻を防ぐプランニングをするというのであれば、保険料の安い掛け捨ての保険を選ぶのは合理的な選択だと思うが、少しでも余裕があれば貯蓄性の保険を検討してみるべきではなかろうか。

もちろん現在のような低金利では貯蓄性の保険をかけても、運用益はほとんどないに等しいが、これは円ベースで保険をかけるからであり、外貨建て保険を掛けると、利回りはぐんとよくなる。外貨建て保険については、為替リスクや高い手数料を問題視する向きもあるが、この場合こそファイナンシャルプランナーが適切にアドヴァイスをするべきだろう。ファイナンシャルプランナーの中にはもっぱら日本円での資産・負債と収入・支出だけで考える者もいるが、通貨の分散化によるリスク軽減という観点からのアドヴァイスが必要だ。

為替レートについては、現在の日本の金融政策の結果として、中長期的には円安になる可能性が高い。もちろん短期的には超円高になることもあろうが、すぐに保険事故が起きて保険金をもらう事態が生じない限り、長い目で見れば悪い資産運用手段ではないと考える。

資産運用のメニューの一つに外貨建て保険を入れてみるのも悪くはないのではなかろうか。