小池知事沖縄入りの理由

堀江 和博

9月23日、小池知事は沖縄県知事選挙で自公維が支援する候補を応援するため、同県入りし街頭演説を行った。3連休といえども都議会会期中であったこともあり、様々な憶測を呼んでいるようだ(『小池知事、都議会の会期中にまさかの選挙応援で沖縄入り…その決断の真意は?』音喜多駿)。自民党幹部からの要請と言われているが、音喜多都議はその真意が「公明党への配慮(何らかのバーター)」があったのではないかと述べている。

確かに、公明党がキャスティングボードを握っていること、再来年の都知事選を考慮し公明党との関係を大事にしていることは事実であろう。しかしながら、今回の沖縄入りの最もたる理由は、公明党への配慮というよりも、自民党本部への配慮、さらにいうと「二階幹事長への配慮」があったのではないかと私自身は考えている。

都知事公式Facebookより:編集部

公明党と佐喜真候補の追い上げ

基本的に公明党は、負ける見込みの選挙には乗らない。今回、自主投票という選択肢もあった中での推薦は、勝算があってのことである。山口代表はじめ、国会議員、都議など地方議員も沖縄入りしているとのことだ。当初は玉城候補が大きくリードしていたようだが、22・23日に実施された共同通信の調査では「玉城、佐喜真両氏が互角」、朝日の調査では「玉城リード、佐喜真激しく追う」となり、だいたい4~5ポイント程度の差まで詰まってきているようだ。(選挙情勢報道の読み方については、『選挙を2倍楽しくみる方法』

期日前投票の数字が鈍かったのは、おそらく公明党員の期日前投票にストップがかかっていたからであろう。なぜストップがかかるのか。それは「公明党の価値を高めるため」である。自民党側にしてみれば、期日前投票や出口調査、各種報道をみれば公明党が動ききっていないことはわかる。そこで自民党は再度公明党にお願いをする。自民党側からの改めての要請があって、はじめて合図が下される。佐喜真候補の追い上げは、公明党の動き出しによって現れた結果と言えそうだ。

なぜそんなことをするのか。一説では「最終的に選挙で勝利し、自民党に恩を売ることで今後の憲法改正に対する発言力を増すことがねらい」であると言われている。本当のところは分からないが、いずれにしても公明党はキャスティングボードを握るのが実に上手だ。

二階幹事長の存在

話を小池知事に戻そう。では果たして、その公明党がわざわざ小池知事を遠く沖縄まで呼ぶであろうか。小池知事がたった1日応援演説に入ったからといって、正直なところ選挙情勢が変わるわけではない。公明党が自ら、小池知事に「借り」を作るようなことをするのか疑問である。

そう考えた場合、報道されているとおり、「自民党幹部からの要請」があったからと捉えるのがしっくりくる。そして、自民党に歯向かった小池知事に、あえて要請するような幹部とは一体誰かと考えた場合、「二階幹事長」以外にいないのである。

ふたたび手を差し伸べる!?

二階氏が要請した背景には次の2点が想定できる。

1つ目は「選挙が総力戦である」ということだ。二階氏は「やれるだけのことは徹底的にやる」ことを信念とし、派閥会合でも度々その旨の発言がなされている。2度の国政選挙で圧勝、各地首長選挙でも与党系候補の勝利、そして2018年6月実施の米山前知事の辞任にともなう新潟県知事選挙での勝利は特に大きな意味を持ったようだ。二階派所属秘書団は早くから沖縄入りし、他派閥に先駆け選挙準備や挨拶周りをこなしている。もちろん所属議員も皆が選挙応援に入っている。

幹事長という立場から、関連団体や企業からの支援を取り付けるとともに、秘書団や議員を実働部隊として派遣する。応援弁士として小泉進次郎氏をはじめとする各級大物議員を派遣し、浮動票を取り込み、メディアにも露出することで、選挙の大勢を大きく引き寄せる。かつての勢いはないものの、大きな知名度と同じ知事という繋がりもあって、応援弁士としてのリストに「小池知事」の名前が上がったのではないか。

それに加えて、両氏は新党ブームの頃からの「旧知の仲」であるということも背景にある。小池氏が02年に保守党を抜けて自民党に入党する道筋をつけたのが二階氏である。希望の党の件があったにせよ、二階幹事長から小池知事に電話一本入ったとしてもおかしくはない。小池知事にとって、二階氏の要請は温かく感じるものだったに違いない。そして同時に、これを契機に「二階幹事長に恭順の姿勢を示すこと」が今後必ず役に立つと考えたであろう。

伏線

以上は、永田町周辺の情報をベースにした私見である。今回の沖縄入りが何かに直接大きく影響することはないであろう。しかし、再来年の都知事選挙やその先の都議会議員選挙を考えた時に、「あの時の沖縄入りから全ては始まっていた」と振り返る日が来るかもしれない。