採算面から見る、新潮45の休刊 --- 高橋 大輔

寄稿

先日発表された『新潮45』休刊についてはすでに多くの方が分析や見解を示されています。

最後の発行となった『新潮45』10月号(新潮社サイトより:編集部)

アゴラ執筆陣の中でも池田信夫・アゴラ研究所所長ジャーナリスト・中村仁さんなどの論考は大いに参考になりました。

尾崎財団でも零細ながら『世界と議会』と題した政界・自治体向けの季刊誌(かつては月刊)を半世紀以上に渡って発行していることもあり、紙媒体が存続することの難しさを改めて感じます。

さて、新潮45の懐具合は実際のところ、どうだったのか。公開情報と実際の誌面を突きあわせると、採算ベースではいかに厳しかったのかが伺えます。

一般社団法人日本雑誌協会によると、印刷証明付き発行部数は直近の2018年4月〜6月期で16,800部。

現在の定価が880円なので、完売時の販売収入は16,800部×880円=14,784,000円の計算になります。

書籍の販売収入と並んで大きな収入源となるのが広告媒体ですが、広告収入は通常部数に比例します。
実質的な最終号となった2018年10月号の出稿数をカウントすると、定価ベースで4,305,000円の試算となりました。

ただし通常は連続定期の割引や、出版社同士のバーター掲載などもあるため、実際の広告収入は計算上の見込をはるかに下回っていただろうと思われます。

毎号の計算上収入は販売収入と広告収入を足した19,089,000円ですが、ここから寄稿者への原稿料や謝礼、編集に伴う人件費、印刷製本費用や物流費用、広告宣伝費なども賄うことになります。

どれだけの収支だったのか定かではありませんが、一連のLGBT問題が広告増につながったとは到底考えられず、少なくとも撤退戦を余儀なくされる状況だったのではと察します。

看板ゆえの、スピード休刊か

ネット上では新潮社の休刊発表を「敵前逃亡」あるいは「保守の衰退」と見る向きも多いようですが、私は少し別の見方をしています。今回の一件は単なる月刊誌の存続に限らず、新潮社そのものの屋台骨を揺るがす。そうした経営判断が働いたのではないでしょうか。

業界内では大手といえども、新潮社の従業員数は2017年4月現在で370名と決して大きくありません。数万人の社員を抱える大企業をタンカーに例えるならば、帆船のごとく風の影響を受けやすい。

誌名が社名の一部でもある以上、同社が抱える他の週刊誌や月刊誌の広告離れを食い止めるには一刻も早く休刊に踏み切るしかなかった。これが事態の鎮静化を招くのか、あるいは延焼につながるのかは今の時点では何とも言えません。
今回の休刊発表を残念がる人、憤る人。思いはそれぞれかも知れませんが、それも含めて経営判断なのでしょう。

もしも新潮45が紙媒体でなくWeb媒体であったならば、たしかにPV(ページビュー)の大幅な増加で広告収入を増やすことはできたでしょう。中にはそれをよしとし、批判コメントの応酬でPVアップを狙うWebメディアも存在しますが、紙という性質上、刷った以上の部数は伸びません。鎮火ができなければ、後は焼かれて灰になるのを見守るしかありません。

編集こそが、メディアの成否を分ける

メディアに期待される役割は「良質な記事の提供」であって、注目さえ集めればいいというものではありません。
編集方針がメディアの興亡あるいは成否を左右するという点では、紙もネットも一緒でしょう。
もちろん何をもって良質かというのは人それぞれですが、少なくとも私が期待する良質とは次の3点です。

・破壊ではなく、建設的なもの
・独自の記事、あるいは視点の有無
・掲載記事に対する責任

締め切りや人件費などの制約がある中で、どれだけ手間をかけるか。独自のオピニオンや記事が読めるか、寄稿者に対してどれだけフェアであるか。

そして時には記事に駄目出しをし、掲載方針や基準を満たさないものは出さない。いずれも、編集に帰結するものです。
どんなに有名あるいは高名な著者の寄稿でも、それが誤解を招くようではいけない。そこを水際で止めたり、あるいは世に問える段階まで持って行く。

それが「第一の読者」である編集の務めであり力量であり、そして一番の価値です。
映像メディアでよく言われる恣意的な継ぎはぎなく「編み、集める」という本義です。

そういう意味では新潮社ホームページに掲げられている「新潮45」休刊のお知らせがすべてを物語っていると言えるでしょう。部数低迷も右か左か、保守かリベラルかというスタンスの問題ではなく、編集という唯一にして最大の品質向上手段を軽んじた結果だと私は思います。

奇しくも最終号となった10月号は、Amazonやネットオークションでもかつてない高値がついているようですが、特集も特別企画も読み応えのある記事が揃っています。それだけに今回の休刊は、時すでに遅し。それが残念でなりません。

高橋 大輔 一般財団法人尾崎行雄記念財団研究員。
政治の中心地・永田町1丁目1番地1号でわが国の政治の行方を憂いつつ、「憲政の父」と呼ばれる尾崎行雄はじめ憲政史で光り輝く議会人の再評価に明け暮れている。共編著に『人生の本舞台』(世論時報社)、尾崎財団発行『世界と議会』への寄稿多数。尾崎行雄記念財団公式サイト