マケドニアで国名変更の賛否を問う国民投票が30日行われた。スコピエ(首都)からの情報によると、国民投票が有効となる投票率50%に達しなかったため、国民投票は無効となった。マケドニアのゾラン・ザエフ首相はこの結果を受け、「議会で国名変更の採決を実施したい」と述べ、憲法改正で国名変更問題の早期採決を目指す意向を明らかにした。
マケドニア国家選挙委員会が発表した暫定結果によると、投票率は約33・4%で有効投票率50%より大きく下回った。国民投票はもともとシンボル的なもので、最終的に国名変更に関するギリシャとの合意書の批准は議会で決定することになっている。マケドニアからの情報によれば、投票した有権者の約91%は国名変更を支持、反対票は6%弱に過ぎなかった。
ところで、憲法改正には議会定数(120)の3分の2の支持が必要だが、与党「社会民主同盟」(SDSM)主導のザエフ連立政権は目下、連立政党のアルバニア系2党を合わせても62議席と過半数をかろうじて上回っているだけで、改憲に必要な80議席からは程遠い。
ザエフ首相は、「大多数の国民が欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)加盟の道を開く国名変更を支持した。国民の意思を今こそ議会で実現したい」と議会での批准に自信を示す一方、「野党勢力が妨害するならば、早期議会解散も辞さない」と警告を発した。
マケドニアは1991年、旧ユーゴスラビア連邦から独立、アレキサンダー大王の古代マケドニアに倣って国名を「マケドニア共和国」とした。ギリシャ国内に同名の地域があることから、ギリシャ側から「マケドニアは領土併合の野心を持っている」という懸念が飛び出し、両国間で「国名呼称」問題が表面化した。
ギリシャ側はマケドニアが国名を変更しない限り、EUとNATOの加盟交渉で拒否権を発動すると警告を発してきた。そのため、マケドニアはギリシャ側と国名変更で協議を重ね、今年6月17日、ギリシャ北部のプレスパ湖で両国政府が国名を「北マケドニア共和国」にすることで合意したばかりだ(通称プレスパ協定)。
国名呼称問題で動きが出てきたのは、マケドニアで10年間余り政権を握ってきた中道右派「内部マケドニア革命組織・国家統一民主党」のニコラ・グルエフスキ、エミル・ディミトリエフ政権に代わり、昨年5月末、ザエフ左派政権(「マケドニア社会民主同盟」)が発足してからだ。
ギリシア外務省は、「わが国はマケドニア国民の決定を尊重する。マケドニアの国民投票が無効に終わったが、わが国はマケドニアとの間の合意を堅持する」と強調し、マケドニアの国名変更での合意で生まれたモメンタムが消滅しないように努力するという。
一方、EU近隣政策・拡大交渉担当のヨハネス・ハーン委員はマケドニアの国民投票の結果を「大多数の国民が国名変更とEUとNATOへの加盟路線を支持したプレスパ協定を支持した結果」と受け取り、歓迎のメッセージをツイッターで発信した。
なお、国民投票で反対を投じたのは議会に議席を有さない小野党グループや非政府機関関係者が主だが、無党派のジョルゲ・イヴァノフ大統領も反対を国民に呼びかけてきた。一方、ギリシャでも「新国名にマケドニアという呼称があれば絶対に受け入れられない」という声が聞かれる。マケドニアとギリシャ両国内では民族主義的勢力が活発な動きを見せているだけに、「マケドニア国名呼称」問題が実際に平和解決されるまで紆余曲折が予想される。
ちなみに、ロシアと中国がバルカンでの影響力を拡大するためマケドニアに接近してきているだけに、マケドニアのNATO加盟に対し、両国からさまざまな妨害工作が出てくる可能性が考えられる。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年10月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。