2020年7月24日に開会式を迎える東京五輪・パラリンピックの暑さ対策として、オリパラ組織委員会の森会長が提案したことから話題となっている「サマータイム 」。
私は、テクロジーの社会実装を推進する政治家として、サマータイムには反対の立場を表明しています。ICTと人材の視点で考えるとそのメリットよりもデメリットのほうがはるかに大きいと考えているからです。加えて、サマータイムのメリットと言われている省エネへの効果もエビデンスが確かではありません。
先日、自民党内で導入に関する研究会の第一回が開かれましたが、遠藤利明・東京五輪実施本部長から「2020年の導入は難しい」と見通しが出された通り、政府・与党内で慎重論が広がっています。
今後は2020年以降も視野に議論を続けるとされたようですが、すでにサマータイム導入によるデメリットが大きすぎることが明確であり、議論を続ける必要もないと思っています。党内の正式な会議の場合、官僚は質疑対応などの準備が必要となるため、その拘束時間も勿体無いです。
今後、同様の議論が事実関係の理解不足のまま再燃することのないよう、総務大臣政務官として省内でサマータイム導入の問題点を整理しましたので、こちらでも共有したいと思います。
簡単に言うと、皆さんが日々使っているPC、携帯電話、IoT機器など通信が関わるもの、炊飯器やお風呂など時間で使う家電、放送、金融、公共交通など時間と密接に関連づいている公共インフラ、のほぼすべてに改修が必要になります。
システムはネットワークを活用して遠隔で更新できるんじゃないの?自動的に対応できるんじゃないの?という意見もあるようですが、サマータイムを実現するには、まず政府で持っている原子時計を使った標準時発生システムに手を入れる必要があります。
電波時計などはそのシステムを元にした標準電波を基準に動いているのですが、電波時計すら、そもそもサマータイムを想定して作られていませんので、自動で対応できないことが想定されます。
サイバーセキュリティの観点においても、遠隔のソフトウェア更新で対応する場合、サマータイム対応を騙った偽の修正プログラムが出回り混乱をきたすことも容易に想像できます。
さらに、システムを更新すると言っても、実際には現実世界で稼働中のものを更新するというのは大変です。例えば放送分野でいうと、番組やニュースの送出は、時刻情報に基づいているだけでなく、複数のシステムが相互に連携しているため、システム全体の改修が必要となりますが、24時間稼働しているため、検証には膨大なリソースがかかります。
情報システムやソフトウエアについても、日本時間で時間管理を行なっているソフトウエアやアプリケーションのサマータイムへの対応が必要になります。
最大のポイントは、これらは民間企業の皆さん、特にエンジニアの皆さんに、通常の業務の他に追加でやっていただかなくてはならない作業だということ、そして、それが本当に国民の皆さんにとって必要なことなのか、ということです。
日本でのIT人材はただでさえも不足しており、5G、AI、クラウド化など、世界的に止められない技術革新の流れに乗り産業を強くしていくこと、また災害や行政サービスのデジタル化を進めて国民の皆さんの生活をより安心で快適なものにしていくことのほうが、少なくとも向こう2年についてははるかに大きな優先事項です。
さらにその将来を見据えるなら、IT人材の活用と育成は、サマータイムのための”作業“のためでなく、世界に貢献し、この国をアップデートするテクノロジーのために行われるべきです。
幸いにも世界のトレンドは、EUの行政執行機関の調査に協力した460万人のうち84%が廃止を支持するなど、廃止の機運が高まっています。何をやるべきか、何をやめるべきかの整理・判断は政治家の重要な仕事。日本のテクノロジーの社会実装の予算と人材が、有効に活用されるよう、積極的に取り組んでいきます。
編集部より:この記事は、総務政務官、衆議院議員の小林史明氏(広島7区、自由民主党)のオフィシャルブログ 2018年10月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は小林ふみあきオフィシャルブログをご覧ください。