米国株式市場の上昇トレンドは終了したのか

5日に発表された9月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数は13.4万人増と予想の18.5万人増を下回り、注目された平均時給は前年比2.8%増と8月の2.9%増からは伸びが鈍化していた。しかし、失業率は3.7%と1969年12月以来の低水準となったことで、労働需給の引き締まりが物価上昇圧力につながるとの見方から、この日の米10年物国債利回りは一時3.24%に上昇した。

原油先物価格は先週、代表的な指標となっているWTIが一時76ドル台にまで上昇した。さらに中国からの輸入品への関税による物価上昇圧力なども意識されて、米10年債利回りは3.11%の節目を超えてから、3.2%台に上昇した。

米長期金利の上昇は、それに伴う長期と短期の金利差の拡大などから、銀行株など買われて米国株式市場では買い材料と認識されていた。しかし、3.1%を上回ったあたりから、金利上昇によるコストや配当利回りなど意識しての相対的な魅力の低下なども意識されて、むしろ売り材料となってきている。

米国向けハード機器に中国製のスパイ半導体が組み込まれたとの報道も嫌気されて、米国株式市場の上昇を先導してきた主力ハイテク株などに売りが入り、特にナスダックの下落が大きくなっていた。

米中の貿易摩擦の問題はあっても「とりわけ輝かしい局面にある米経済」(パウエルFRB議長)を背景にダウ平均など過去最高値を更新してきたが、米長期金利の上昇とともに、米国と中国との関係悪化による影響が表面化しつつあり、米国株式市場の先行きを不透明にさせている。

中国政府が米向けハード機器に「スパイ」を埋め込んだとの報道について、不審な半導体の存在に気づきFBIらと協力しているとされたアップルやアマゾンは否定コメントを出した。

知的財産権侵害をめぐりトランプ米政権が中国に対して制裁を発動したのは、ハイテク産業における米中両国の覇権争いが背景にあるとされる。もし仮にハード機器に「スパイ」が埋め込まれていたのが事実となれば、自由貿易に反すると批判も多いトランプ大統領による保護貿易主義だが、それが正当化される懸念もありうる。

予算案を巡ってのイタリア政府とEUとの対立、英国のEU離脱問題なども気掛かりながらも、今回の米国株式市場を主体とする大きな調整は、米国の長期金利と物価の動向、さらには米中の貿易問題が影響を与えている。再び楽観的な見方が強まり、今回の調整は一時的なものとなるのか、それとも上昇トレンドそのものが変化してくるのか。特にナスダックの日足チャートが下に抜けてきたようにも思われ、チャート上からも注意してみておく必要がある。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年10月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。