不動産価格が世界的に下落の兆し…日本は?

有地 浩

先月公表されたUBSグループによる世界の不動産バブルに関するレポートによれば、過去5年間に世界の20主要都市で不動産価格が平均35%上昇し、この1年間では平均して3.5%の上昇となった。

「バブル第一位」とされた香港(barnyz/flickr:編集部)

このUBSのレポートは、購入者の収入や家賃の水準、住宅ローンや住宅建設の動向を勘案して不動産の価格が不釣り合いに高いかどうかを指数で示し、分析しているが、今年のバブル第一位は香港だった。香港では2012年以来年率で約10%の上昇が続いており、60平米のアパートの価格は、技能を持ったサービス業の労働者の年収の22倍に達している。一般に住宅ローンは年収の5倍以内に抑えた方が良いと言われているから、22倍というのは、ほぼ購入不可能ということだ。

そして、香港に続いてミュンヘン、パリ、アムステルダム、ロンドンといったユーロ圏の主要都市や、カナダのトロント、ヴァンクーヴァ―といった都市もバブルの状況にあるとされ、ニューヨーク、サンフランシスコや東京も、バブルではないものの過大評価と位置づけられている。

サンフランシスコの事情に詳しい私の友人から聞いたことだが、現地ではIT企業が好景気であることと外国人の積極的な購入により一部の住宅地の価格が高騰し、普通の一戸建てが200万ドル(約2億6千万円)以上しているそうだ。このため、IT企業とは関係のない学校の先生やメイドさんなどは職場の近くに住むことが出来ずに困っているとのことだ。

アメリカのS&Pケース・シラー全国住宅価格指数も、既にリーマン・ショック前の2006年のピークを大きく上回っていることは前回述べたとおりだ。

これらの指標を見る限り、まだ世界の不動産市場は強力な右肩上がりのトレンドが続いているように見える。しかし、ここに来てそうした上昇傾向に潮目の変化が見え始めた。

UBSのレポートによれば、昨年バブル状態と分類された都市の半数で価格の下落が始まっており、とりわけスウェーデンのストックホルムやオーストラリアのシドニーでは急激な下落が見られた。また、S&Pケース・シラー住宅価格指数でも、ニューヨークのコンドミニアム(マンション)の価格は今年の3月までの右肩上がりのトレンドに変化が生じ、4月以降7月まで、前月比が4か月連続で下落している。

これは、米国のFRBが政策金利を引き上げてきている一方、欧州でもECBが超金融緩和を来年にも止める可能性が取り沙汰されており、今までジャブジャブにあった世界のマネーの状況に変化が起こりつつあることが最大の原因だと思われる。

これに加えて、中国が外貨準備の急激な減少を抑制するために、厳しい資本流出策を講じたことも大きく影響している。中国はこれまでも、経済成長のスローダウンや人民元安によって大量の資本が海外逃避するのを抑制するため資本流出規制を行ってきたが、昨年夏にこれをさらに強化し、不動産等に投資することを厳しく制限するようになった。このため中国マネーが好んで買ったニューヨークの豪華マンションの価格が顕著に下落しているほか、中国マネーが席巻したオーストラリアやカナダでも、現地政府による外国人の不動産購入規制も相俟って、ネガティブな影響が出始めている。

目を日本に転じると、日銀は依然として金融の超緩和の建前を崩していないものの、長期金利が0.1%を超えてもすぐには国債市場に介入しないでおり、緩和一辺倒のスタンスではなくなりつつある。またタワマン等の爆買いをした中国マネーの流入は、日本でも止まっている。

さらに、日本ではこうした世界的な傾向に加えて、銀行の不動産融資の鈍化が不動産価格に影響してくることが予想される。ご存じの通り、スルガ銀行に対する金融庁の6か月間の不動産融資業務停止処分に象徴されるように、銀行界はこれまでのようにイケイケどんどんの不動産融資はできなくなっている。

不動産市場に秋の風が吹き始めた。