英国で広がるフレックス制、雇用主と従業員の評価は?

(「英国ニュースダイジェスト」掲載の筆者のコラム「英国メディアを読み解く」に補足しました。)

英国では、9月から新学期が始まっています。

筆者の自宅は、小学校に面しています。朝8時過ぎになると、子供を学校に連れてくる親が運転する車で、周辺の道路は大混雑します。午後3時半ごろの下校時には、再度、車の「ラッシュアワー」の到来です。

日本からすると不思議な光景かもしれませんが、英国では親が子供の通学の送迎をすることが慣習になっているのです。仕事を持っている親は大変です。なかにはニーズに合わせて働き方を調整できる「フレックス制」を利用している人もいるかもしれません。

写真AC:編集部

すべての従業員が利用できるフレックス制

英国では2003年の法律により、仕事を持つ親に6歳以下の子供や、介護を必要とする子供(2007年からは成人も)がいる場合、雇用主に対して、就業時間を調整するなどのフレックス制を要求する権利が保障されています。2014年からは、すべての従業員にこの権利が認められるようになりました。

フレックス制には、様々な形態があります。

例えば、2人で一つの仕事を担当する「分担労働」、オフィス以外の場所、例えば自宅などで働く「リモート労働」、フルタイムより少ない時間で働く「パートタイム」。更に、フルタイムと同じ就業時間を少ない日で働く「まとめ勤務」や、就業時間の始まりと終わりを調整する「フレックスタイム」など。

フレックス制を利用したい従業員は、雇用主にこの制度の利用を求める申請書を提出します。申請条件は、その会社に過去最低26週間は勤務していること。いつからどのように制度を利用したいか、ビジネスにどれほどの影響が出る見込みで、どのような方法でそれを回避するかなどを記します。

申請書を受け取った雇用主は3カ月以内に返答をしますが、もし許可をしない場合、合理的と思われる理由を示さなければなりません。申請が却下され、従業員がこれを不服とした場合、雇用主に再考を求めるために労働裁判所に訴えることができます。

92%がフレックス制を導入

実際に英国では、一体どれほどの人がフレックス制を利用しているのでしょうか?

政府の依頼を受けて、英国の働き方について調査をした報告書「グッド・ワーク」(2017年7月発表)によると、雇用主の92%が何らかの形のフレックス制を導入しており、過去1年間に利用した従業員は60%。別の調査では70%を超えたとする結果もあります。

近年、インターネットを通じて単発の仕事を受注する「ギグ・エコノミー」方式で働く人も増えていますから、働く人の大部分が何らかの形でフレックス制を使っているとも言えそうです。

では、フレックス制で企業はどんな恩恵を得ているのでしょう?世論調査会社ユーガブによれば、89%の雇用主及び従業員がフレックス制は職場の生産性を上げると答えているそうです(2017年10月)。

就業時間を調整する場合、朝の9時から午後5時までという通常の時間よりも早く始まり、早く終わる形を多くの従業員が求めている結果も出ています(同年11月)。最も好ましい就業時間は朝8時から午後4時でした。

なるべく早く仕事を終わらせて、自分の時間を過ごしたいという英国人の気持ちが表れているようです。

一人一人の働き手の生活事情に合わせて、より自由なスタイルで働く仕組みとして広がっているフレックス制ですが、決して良いことばかりというわけではないようです。

例えば会計会社デロイト・トーマツと人材コンサルタント会社タイムワイズの調査によると、フレックス制利用者の中には、「フレックス制を使わない同僚よりも仕事受注の機会が減少した」、「昇進が遅くなった」と感じる人がいるそうです(「フィナンシャル・タイムズ」紙、2018年6月28日付)。

来年、フレックス制の見直しが行われることになっています。見直しにより更に働きやすい環境が実現し、様々な生活環境を持つ人たちが、雇用市場に参加できる社会になるといいのですが。

キーワード Gig economy(ギグ・エコノミー)

「ギグ(単発の仕事)」を基盤とした働き方や、それによって成り立つ経済形態です。タクシー・サービス、出来合いの食事を運ぶサービスなど、インターネット経由で仕事を受注します。いつどれぐらいの時間働くかを決める自由度はありますが、最低賃金の支払い保証や有給休暇がないなど、労働者としての権利が十分に保護されない負の側面もあります。


編集部より;この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2018年10月16日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。