米国女性のウエスト平均、約30年前から約15㎝増で小売業者も対応

安田 佐和子

タレントの渡辺直美がグッチの公式インスタグラムに登場した結果、同インスタが炎上し大きな話題となりました。9月15日にリニューアル・オープンしたグッチ青山店でのパーティーに参加した渡辺直美は、全身のグッチ・コーディネートが圧巻でしたが、従来の痩身モデルではない彼女の姿は、物議を醸すのに十分だったようです。

米国ではというと、物議を醸すどころか、ビジネス界がぽちゃ女子系に熱い視線を送ります。プラスサイズ、つまり平均より大きなサイズの衣料品市場への一般小売業者の参入が本格化し始めてるのですよ。

最近の例ではウォルマートが挙げられ、同社は10月2日にプラスサイズのキャリア女性向け服飾メーカー“エロクィ”の買収を発表しました。2017年3 月に買収したビンテージ系の“モッドクロス”、2018年2月に立ち上げたカジュアル系の自社ブランド“テラ・アンド・スカイ”を含め3ブランドに増やし、プラスサイズ商品の充実化を図ります。

プラスサイズ市場には格安百貨店ターゲットが2015年に先鞭をつけていましたが、その他高級百貨店ノードストローム、服飾メーカーのJ.C.ペニー、スポーツ衣料のナイキなど、次々に参戦、競争は熾烈さを増しています。

ノードストロームは、店舗にプラスサイズ衣料品を陳列し顧客にアピール。

Mannequins-Wearing-Halogen-A-Nordstrom-Exclusive-Brand
(出所:Nordstrom

なぜ今かと申しますと、一つにSNSの普及が挙げられます。米国では90年代半ばから、ボディ・ポジティブ・ムーブメントと呼ばれ、既存の美的感覚から脱却し美の多様性を目指す運動が展開されてきました。広告では、ボディシャンプーの“Dove”などが有名ですね。こうした広告や運動は双方向的さを欠いていたものの、SNSの発展が意識の共有を容易にし、女性の間で浸透していったと考えられます。

SNSで、プラスサイズ女性の存在は日に日に高まっています。eマーケッターの調査では、インスタグラムで#plussizeのハッシュタグつきの投稿数は530万件を数え、ユーチューブでは160万件を超える動画が検索できるのだとか。女性向け情報誌だけでなく、エリート・デイリーなど男性向け情報サイトもプラスサイズの女性インフルエンサー的存在を取り上げるなど、注目度も抜群。彼女達のフォロワー数は数十万人を突破しているだけに、無視できない存在と言えるでしょう。

プラスサイズ女性がSNSで情報発信する動きは、様々なかたちで影響を与えています。例えば、ウォルマート傘下に入ったエロクィですが、実は別会社傘下にあった2013年に親会社の再編の方針により、閉鎖を余儀なくされました。しかし、顧客がSNSで抗議活動を展開したため資金調達に成功、見事復活を遂げたのです。その他、2014年には服飾メーカーのギャップ傘下にあるオールド・ネイビーに対し、プラスサイズ衣料品の値上げ中止を求める嘆願書が立ち上げられ、2週間で9万5,000人の署名を集めました。ギャップ側は要請を受け入れ、嘆願書の発起人は高らかに勝利を宣言したものです。さらに、ファッション業界にもプラスサイズ旋風が巻き起こっています。2018年春のNYファッション・ウィークではプラスサイズモデルが90人登場、過去2回の14~16人から急増しました。

小売業界やファッション業界がプラスサイズ女性のニーズに対応する最大の理由は、やはり肥満率の上昇に伴う女性の体型変化でしょう。米国では、2016年時点で成人のうち39.6%が肥満(身長と体重で計測するボディマス指数で30以上)に分類され、40~59歳の女性で42%とされています。

大人から子供まで、肥満率は上昇中。

obesity
(作成:My Big Apple NY)

肥満率の上昇に伴い、米国人女性の平均像も様変わりしました。NPDグループによれば、18〜65歳の女性の衣料サイズ平均は16~18(ウエスト平均は95.2cm)。つまり、現代女性の約7割が、1988~1994年の衣料サイズ平均14(ウエスト79cm)以上だといいます。

プラスサイズ女性の衣料品支出が同サイズ以下の女性を下回るとの通説が打破されつつあることも、小売業者やファッション業界がプラスサイズ市場に注力する一因です。これまで、プラスサイズ以外の女性の衣料品支出は1ヵ月で約80ドルと試算され、プラスサイズ女性はこの3分の1程度とされてきました。しかしウォルマート傘下のブランド、モッドクロスによれば、88%が「かわいい衣料品が見つからず、困っている」と回答。「体型にフィットする衣料品が少ない」との回答も72%で、さらに「サイズが合い、アイテムがおしゃれであれば衣料品の支出を増やす」との回答も84%でした。小売業者やファッション業界が、需要の掘り起こしを十分に行っていなかった可能性を示唆します。

これまで、25の百貨店など小売業者の間でのプラスサイズの取り扱い比率は全体の2.3%程度でした。しかし、SNSが高まるプラスサイズの需要を漸く顕在化させたと言えるでしょう。2017年時点の女性向け衣料品売上高に占めるプラスサイズは17.5%ながら、ウォルマート傘下に入ったエロクィのチェース最高経営責任者は、プラスサイズが主流になり「いずれ言葉そのものが消える」と大胆に予想します。女性向けプラスサイズ衣料品の売上高は2020年まで年間4%増と、衣料品全体の2%増を上回るペースが見込まれるだけに、楽観シナリオを想定しているのでしょう。ただ、プラスサイズ市場の拡大により、健康問題があらためてフォーカスされても、おかしくありません。

(カバー写真:Colleen Eakins/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年10月25日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。