中間選挙、民主党プログレッシブ台頭なら米株は一段安?

安田 佐和子

いよいよ、11月6日に中間選挙が行われ、米下院では435議席全てが、上院は3分の1相当の35議席(共和党9、民主党26)が改選となります。上院では改選数の差が共和党に有利な上、接戦が予想される15州のうち12州が2016年の大統領選でトランプ氏を選出していたため、共和党が多数派を維持する見通しです。しかし下院となれば話は別で、民主党が現状の194議席を維持し23議席を積み増せば、多数派に転じます。選挙予測で定評のあるファイブサーティエイトは、10月30日時点で民主党が過半数を超える確率を86.0%と試算、上院での民主党の勝率17.3%とは雲泥の差です。

米連邦選挙委員会によれば、民主党の下院議員候補は選挙資金動向でもリードし、10月半ばまでで8億4,997万ドルを集めました。共和党陣営は、5億7,670万ドルに過ぎません。しかも、200万ドル以上を集めた候補者は共和党の17人に対し、民主党は73人でした。

民主党の勢いを支えるのは、移民政策や銃規制などでトランプ政権に真っ向から反対し、政府の介入による格差縮小を目指す民主党急進左派のプログレッシブ派といっても過言ではないでしょう。代表格は、2016年の大統領選でクリントン氏と接戦を演じたバーニー・サンダース上院議員ですよね。今年の中間選挙の民主党予備選では、弱冠28歳ながら、NY州下院予備選で現役のベテラン議員を破ったヒスパニック系のオカシオコルテス候補がサンダース・チルドレンのプログレッシブ候補として、大いに話題を呼びました。

その他、マサチューセッツ州の下院予備選で番狂わせの勝利を果たしたアフリカ系女性候補のアヤンナ・プレスリー氏、フロリダ州知事予備選で勝利したアンドリュー・ギラム候補なども、メディアを賑わせたものです。こうしたプログレッシブ候補は民主党候補者全体のうち11.9%と、2016年の8.4%、2014年の6.9%を上回りました。この事実に、投資家は安穏としていられません。プログレッシブ派の台頭で、税制改正や金融規制緩和が一部巻き戻されかねないためです。

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(作成:My Big Apple NY)

民主党の上院議員は3月、10年間で1兆ドルのインフラ投資案を発表しました。財源には、所得税の最高税率、相続税、代替ミニマル税などの減税措置廃止に加え、法人税率の21%から25%への引き上げが盛り込まれていたのです。

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(作成:My Big Apple NY)

一方のトランプ政権は、10年間で1.5兆ドルながら、政府支出を2,000億ドルにとどめ、民間や州・地方政府との分担を目指すインフラ計画を提案していました。仮に下院で民主党が多数派を獲得すれば、同案に沿って税制改革の一部巻き戻しを主張しかねず、米株相場には悪材料となることでしょう。減税効果のはく落もあって、S&P500構成企業の業績が2018年から2019年に減速が予想されるなら(1株利益:20.2%増→10.2%増、売上高:8.2%増→5.4%増)、尚更です。

何より、プログレッシブ派の支持が厚いウォーレン上院議員が8月に提案した、富の再分配を狙う「説明責任を果たす資本主義法案」には留意すべきでしょう。法案の柱として、年間の収益10億ドル以上の米企業を対象に①取締役の最低40%は、当該企業の従業員から選出、②取締役は自社株取得から5年間、当該企業による自社株買いから3年間、持株を売却してはならない、③政治献金を行う場合、株主及び取締役の75%以上の承認が必要―—などを掲げます。

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(作成:My Big Apple NY)

年初来の米株高は、税制改正に伴う法人税減税のほか、自社株買いに支えられてきました。中間選挙で民主党が下院で多数派を獲得し、プログレッシブ候補が躍進すれば、米株相場が一段安で反応するリスクに留意しておくべきでしょう。

なお筆者は、共和党支持者でもトランプ支持者でも、プログレッシブ反対派でもありません。

(カバー写真:jamelah e./Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年10月30日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。