1997年に創設された「エコタウン制度」、承認を受けた自治体のみならず、環境にやさしく住み続けられるまちづくりを掲げる自治体は多い。エコという言葉は、環境に優しいという意味につながるエコロジー(ecology)と、経済発展と環境保全はつながっているという意味につながるエコノミー(economy)という2つの言葉に由来を持つ。この語源からしても、「エコだから」を理由に、費用対効果のわからぬまま多額の税金投入をするのは本来目的とは異なるのではないか。
政策が生まれた背景の資料の最初のページで、既に矛盾がある。デンマークではエコ政策で「環境負荷・環境対策費用の軽減と、高付加価値製品の開発・販売などの産業振興につながった」ことに流れをくむと言いながらも、日本では「資源循環を通じて産業振興・地域活性化を進め」ることが目的となってしまっている。要は、経済成長で拡大した廃棄物問題を、公共事業で解決することで、地域活性化しようという具合である。
それゆえか、どの自治体でも「環境負荷軽減のためにこんな取り組みをしています」という良い面の紹介ばかりで、費用対効果に触れることはない。
その一例として、環境に良いからと2002年から開始した「バイオマス・ニッポン総合戦略」。バイオマスとは、生物資源(bio)の量(mass)を表す再生可能な有機性の資源で、持続可能な循環型社会に資する。しかし、海外では成功事例が多くあるものの、日本の状況はひどい。
総務省の評価によると、バイオマス構想を掲げる196市町村のうち、補助金を受けておきながら頓挫している自治体も多く、そもそもバイオマス原料の算出根拠が明確なのは54.1%の自治体であり、残りの半分の自治体では算出根拠さえ怪しい。原料の確保も乏しい上、効果となると更に厳しい。稼働率、生産率、利用率、全てにおいて失敗事例が並んでいる。反面、バイオマス関連の補助金は各省庁で乱立しており、類似や重複も指摘されている。もはや、何のための戦略なのか不明である。
これらの原因は、税金や買取制度、補助金のあり方などの不備にもあるが、そもそも論では、各自治体が地元の課題にそぐうかどうかも十分に調査していないこと、そして何よりも、環境負荷と環境対策費の削減効果について、数値目標も定量的評価もないことにある。この点は、バイオマス政策に限らず、他の環境施策、ひいては、行政全事業にも言える。
また、再生可能エネルギー推進に関する調査では、地域活性(地域の収益)につながった再エネ設備があるという回答をした自治体は26.6%しかない。再生エネルギー推進における課題の多くは「事業性の見極めが困難」「初期費用が高い」「詳しい人がいない」といったものであり、多くの自治体で財政的にも人材的にも不足しており、国からの財政支援と情報提供を望んでいる。このような体制では、「成功したらラッキー」レベルである。
国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」を、環境目標に使っている自治体も多いが、これが逆に「エコのため」という支出名目になってしまっているのが実情ではないだろうか。「良いことだから赤字で当然」と、採算度外視の事業を行うのは単なる行政のエゴである。
環境負荷が深刻な地域において、その低減はもちろん必要だが、恒常的なエコ事業は、極力財政負担のない形で進めるべきであり、行政による補助金依存の事業として行うのではなく、専門知識と経営能力のある民間事業者に委ねていくことが、収支バランス向上への近道であろう。更には、税の使途の明確化として、事業の収支を明確にしてその妥当性を世に問うべきである。
国家予算の1/3を借金で賄っており、全自治体の96%が地方交付税に頼っている状況において、全国各地で採算不明のまま多額の税金を投入している姿は、持続可能どころか、破滅への道を歩んでいる。
山本ひろこ 目黒区議会議員(日本維新の会)
1976年生まれ、広島出身、埼玉大学卒業、東洋大学公民連携学修士、東京工業大学イノベーション科学博士課程後期。
外資金融企業でITエンジニアとして勤務しながら、3人娘のために4年連続で保活をするうちに、行政のありかたに疑問を抱く。その後の勉強会で小さな政府理論に目覚め、政治の世界へ。2015年、目黒区議選に初当選。PPP(公民連携)研究所、情報通信学会、テレワーク学会に所属。健康管理士。