日本経済新聞の名物コーナー「経済教室」に吉田二郎氏(ペンシルベニア州立大学准教授)が書いていた日本の不動産に関する考察は、不動産投資家であれば読んでおくべきです(表も同紙から)。
建物の用途別の年平均の減価率を計算したものですが、海外の数値に比べ極端に高いことがわかります。つまり日本の建物は価値の下落が著しいということです。
その理由として、日本は木造が多いから耐久性が無いから、日本は高温多湿で建物が傷みやすいから、日本は木造物件の法定耐用年数が22年と短いから、などの説明を吉田氏は否定しています。
アメリカの住宅もほとんどが木造なのに、経年減価率は低く、日本より圧倒的に長持ちしています。また、日本の高温多湿な気候(年間平均湿度は東京62%、大阪65%)よりアトランタ(平均湿度67%)ニューオーリンズやヒューストン(74%)の方が湿度も気温も高いのに日本のような頻繁な建替えはない。
さらに、法定耐用年数についてもアメリカの賃貸住宅の法定耐用年数は27.5年で、日本の年数と大差はなく、これも理由にはなりません。
吉田氏が指摘する、日本の建物の短命な理由は、戦後日本の生活スタイルの急速な変化と、耐震の技術進歩のスピードの速さの2つです。
生活スタイルがこの70年で大きく変わったことで、既存不動産の利用価値が減少していき、建て替えが進んでいったのです。これは欧米ではでは起こらなかった変化です。
そしてもう1つが、耐震技術の進歩です。十勝沖地震の後の1971年に建築基準が改正され、1981年の宮城県沖地震の後には新耐震基準が導入されました。さらに、阪神大震災の後の2000年にも基準が改正されています。
耐震基準の強化によって「既存不適格」の建物が増え、増改築や用途変更の際に新基準に適合させなくてはならなくなります。これも建替えを促進する要因になります。
しかし、逆に考えればライフスタイルの変化が無くなり、耐震技術の進歩も一段落すれば、日本の建物も欧米並みとはいかなくても、それなりに減価率が下がることが予想できます。今後は人口減少によって既存の中古住宅を有効活用する動きも高まりそうです。
鉄筋コンクリート造の居住用住宅は、法定耐用年数の47年よりも実際には長持ちする可能性が高いと思います。実際、最近取り壊される住宅でも築80年を超える物件があり、直前まで実際に使われていました。
建物の減価率が過去データよりも下がってくれば、不動産の劣化スピードが過去の想定よりも緩やかになる訳ですから、価格は下がりにくくなります。
日本の不動産は古くなると価値が下がるという「神話」もいずれ覆される時が来るかもしれません。ただし、ニーズのあるエリアに限定されるとは思います。
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編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2018年11月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。