都合のいい“ねじれ現象”⁉︎トランプ氏「20年再選」モードへ

長谷川 良

米中間選挙が実施され、大方の予想通り、民主党は下院で2010年以来8年ぶりに過半数を獲得し、上院では共和党が議席数を増して過半数を維持した。不動産王・トランプ氏が第45代米国大統領に選出されて以来、「米国ファースト」を標榜する米大統領との関係でさまざまな軋轢を体験してきた欧州では「これでトランプ大統領の強権にストップがかかる」といった声が支配的で、欧州とトランプ米政権の新しい関係構築のチャンスが訪れたと歓迎する論調が多い。そこで以下、米中間選挙結果について欧州メディアから代表的な声を拾った。

中間選挙後のホワイトハウスでの記者会見(2018年11月7日、ホワイトハウスの公式YouTubeから)

独週刊誌シュピーゲル(Der Spiegel)は、「トランプ氏の政治スタイル、憎悪を煽るレトリック、自己称賛といったやり方に限界があることを示した」と指摘、トランプ氏は政治スタイルを変えなければならなくなると予想している。中間選挙結果は米国民のトランプ氏へのメッセージというわけだ。換言すれば、トランプ氏の2年間の政治に苦しめられ、不安を煽られてきた欧州の人々の平均的思いが込められているわけだ。

BBCは、「下院はトランプ政権をコントロールできるようになった」と期待を表明し、民主党が政権を奪い返す機会ともなると予想している。

一方、英紙ガーディアン(The Guardian)はちょっとひねくれた受け取り方をしている。中間選挙結果は「トランプ氏の再選の道を開くことになるかもしれない」というのだ。下院の過半数を占めた民主党はトランプ政権と協調を求める。トランプ氏も「ナンシー・ペロシ民主党院内総務(次期下院議長候補)との連帯を今から楽しみにしている」とエールすら送っている。

下院選で敗北したトランプ氏流の敗戦の弁と受け止める人もいるだろうが、そうではない。下院の過半数を獲得した民主党はトランプ政権の政策に口を出す機会が増える。トランプ氏も譲歩せざるを得ないかもしれない。民主党の攻勢を受け、トランプ氏は守勢を強いられるが、そこまでだ。政策で成果をもたらしたなら、トランプ氏は民主党との連携を称賛する一方、その評価を独り占めにする。問題は次だ。成果がなく、問題が生じた場合だ。「民主党の妨害で政策は実施できなかった」とトランプ氏は早速、民主党叩きを始めるというわけだ。

米国経済は順調だ。トランプ氏は選挙戦では移民政策と共に国民経済の発展を過去2年間の最大の成果として誇示してきたが、後半の2年は国民経済にも陰りが出てくると予想する経済専門家が多い。トランプ氏はその時の弁明のために民主党との連携が不可欠となるわけだ。ネガティブな結果は民主党の責任にし、成果は大統領側の得点とするわけだ。すなわち、下院選で共和党が過半数を失ったことは2020年の再選を狙うトランプ氏にとっては都合のいい“ねじれ現象”というわけだ。

トランプ氏は実際ホワイトハウスでの記者会見で、「米中間選挙結果は恐ろしいほどの成果だ」と強調している。この発言は決して負け犬の遠吠えではなく、凱旋の叫びだ。ガーディアン紙は「米中間選挙結果はトランプ氏に将来の失策のアリバイを提供する」と皮肉一杯に論じている。

独日刊経済紙ハンデルスブラット(Handelsblatt)は、「選挙結果は、トランプ氏が共和党支持層、ティー・パーティ支持者、福音教会信者たち、労働者階層の熱烈な支持を依然享受していることを示している。トランプ氏の民族主義的な政策への警戒を緩めてはならない」と強調し、選挙結果を警告シグナルと受け取っている。

いずれにしても、トランプ氏は2020年の再選を目指し、いよいよ再選モードに入るだろう。例えば、ロシアによる米大統領選挙介入疑惑捜査をするモラー特別検察官の活動を「税金の無駄遣いだ」と一蹴し、捜査の早期幕引きを図るだろう。

最後に、米中間選挙結果が明らかになった8日、米ニューヨークで開催される予定だったポンペオ米国務長官と北朝鮮の金英哲朝鮮労働党副委員長の会談が延期になった。

問題は、金正恩朝鮮労働党委員長が米中間選挙結果をどのように受け止めているかだ。シュピーゲルのように「トランプ政権権限縮小説」か、ガーディアンの「トランプ氏再選有利説」か、それともハンデルスブラッドの「警戒説」だろうか。

韓国聯合ニュースは7日、「北朝鮮が最近、核開発と経済発展を同時に進める『並進路線』を再び言及しながら、対北朝鮮制裁の緩和を強く要求する一方、米国は制裁を維持し、非核化の進展を要求するなど、両国間で神経戦が繰り広げられてきた」と報じている。

金正恩氏は対北強硬制裁支持者のトランプ氏の再選を願っていないが、米中間選挙結果はトランプ氏の再選の可能性が決してゼロではないことを明らかにした。北側は急きょ対米政策の見直しを差し迫られてきた。そこで現時点での米朝高官会議は好ましくないと判断し、延期を申し出たのではないか(「金正恩氏「トランプ再選」なしと予測?」2018年9月8日参考)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年11月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。