11月29日の米国債券市場では、28日のパウエルFRB議長の発言を受けて、早期打ち止め観測が強まり、米10年債利回りは一時3%を割り込んだ。米長期金利の3%割れは9月18日以来となる。
やや腑に落ちないのは、28日の米国債券市場の動きであった。同日の米株式市場では、パウエル議長の発言を受けて利上げ打ち止めが近いとの思惑が広がり、ダウ平均は素直に617ドル高となっていた。しかし、同日の米国債券市場では何事もなかったかのように3.06%と前日比とほぼ変わらずとなっていたのである。
この日は原油先物も大きく下落しており、米債は買われていてもおかしくなかったが、買われなかった。ところが、29日の東京時間に米債はあらためて買い進まれ、29日の米国時間の早朝に一時3%割れとなった。結局、この日の米10年債利回りは3.03%と前日の3.06%から低下した。
この米債の動きをみると10年債利回りで3%が大きな抵抗線になっているようにみえなくもない。ただし、29日に発表されたコアPCEデフレータが予想を下回るなど、外部環境は国債の買い方優位にみえる。3%はそれほど強い抵抗線ではなくなるのではなかろうか。
そして、29日にはサウジのエネルギー産業鉱物資源相がサウジ単独での減産は行わないと表明したことや、28日に発表されたEIAの週間在庫統計で米原油在庫が予想以上に増加したことから、原油先物の指標となっているWTI先物は一時50ドル割れとなった。
先日、チャートの月足ベースでみると10月と11月のWTI先物の下落は、2014年に100ドルを超えていたWTIが急落し、2015年1月に50ドルを割り込んだ相場の当初の動きにも似ていると指摘した。このときの調整は2016年1月あたりまで続き、WTI先物は30ドルを割り込んでいる。
チャート上からも50ドルは心理的名節目となっているとみられる。これに対して、産油国であるロシアのプーチン大統領が28日に原油価格について同国としては60ドルなら満足できるとの見解を示した上で、「OPECとは連絡を取り合っており、必要に応じて共同の取り組みを続ける用意がある」と言及した(ロイター)。
このプーチン発言等を受けて、来週開かれるOPEC総会で協調減産が決定されるのではないかとの期待が広がり、原油先物に買い戻しが入って、29日のWTI先物1月限は結局、1.16ドル高の51.45ドルとなった。
原油先物価格のここにきての下落は、トランプ大統領が原油価格は高過ぎると表明したことも一因となっていた。そのトランプ大統領はG20で予定していたロシアのプーチン大統領との会談を中止すると明らかにした。ロシアがウクライナの艦船を拿捕した事件が背景にあるそうだが、原油価格を巡っても米国とロシアの対立色が見え隠れしている。
注意すべきは、FRBの利上げ早期打ち止め観測による米長期金利の一時3%割れと、原油在庫増などを受けたWTI先物の一時50ドル割れの要因としては、米国を含む世界経済の景気減速懸念があることである。
あくまでいまのところ懸念ではあるものの、世界経済の減速の兆候が経済指標等に現れてくれば、この流れを人為的に止めることは難しくなる。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年12月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。