現在、女子マラソン元日本代表選手だった原裕美子さんの、窃盗症について大きな話題となっています。
執行猶予期間中にもかかわらず、わずか382円のキャンディーを万引きしたということで、さすがに世間も「これは病気なんだろうな」ということで理解されたようで、今回のW執行猶予(執行猶予期間中の再犯でも再び執行猶予判決が出ること)という判決にも比較的温かい反応で、ホッとしています。
このW執行猶予は窃盗症(クレプトマニア)と認められると「刑罰より治療を!」ということで、示談が成立している場合などでは、比較的だされる判決ですが、ただ裁判官、担当弁護士によって結果が全く違うのが現実です。
私も、何度か仲間達の裁判を経験しましたが、クレプトマニアの理解がなく、最初から実刑ありきの弁護しかしてくれない弁護士さんにあたってしまうこともあります。法曹界に病気の理解が進むことを心から願います。
今回は私も尊敬する、クレプトマニアの裁判では第一人者である、林大悟先生が弁護にあたられたようで、本当によかったと思います。林先生のインタビュー記事、この病気について分かりやすく解説されておりますので、
是非ご一読下さい。
担当弁護士が語る 原裕美子事件から見えた「万引き病」の怖さ(Friday Digital)
また、判決の翌日である昨日、日本テレビ系ワイドショーに「スッキリ」に生出演されましたが、これは原さん、そして番組ともども勇気ある決断をされたと思います。
原さんの「何度も数えきれないくらい万引きをした。」という正直な話、「番組に出ることで、同じ病気を抱える人達の助けになりたい」という言葉には、私自身もカミングアウトの葛藤に悩んだ経験から、有名人と一市民では大きな違いがありますが、原さんの勇気に共感と敬意を感じました。
番組も、長尺でこの問題を扱いクレプトマニアの理解促進に貢献して頂いたと思います。
クレプトマニアのことをあまりご存じないMCの加藤浩次さんらが、率直な質問をぶつけられており、それが一般市民の方にも分かりやすかったのではないかなと感じています。
加藤さんらがしきりに「なんで執行猶予中なのに、またやってしまったのか?その時の気持ちは?」ということを聞いておられ、原さんは「自分でもわからない」という風に答えられておられましたが、それは原さんの最も正直なお答えだったと思います。
ゲストの方が「わからないではなく同じ病気の人の助けになりたいのなら、その気持ちを伝えるべき」といった発言をされていましたが、それはまだ回復しようと努力し始めたばかりの、ビギナーである原さんには酷なことで、分からないことが当然だと思います。
自分の過去をなんとか言語化できるようになるのは、回復が進んだ後のことで、今は一日一日やめ続けることで必死なはずです。
あえて言語化するなら「理性より衝動にあらがえなくなる病気」としか言いようがありません。
やっちゃいけないと分かっていても、あまりに大きな強迫観念が襲ってきていても立ってもいられなくなるのです。
このように日頃、依存症問題に関しては、殆どボロクソに叩かれることが多いのですが、今回の場合は、被害金額がわずかであったこと、原さんが正直に話されていたことから、病気への理解が進み、我々依存症問題に関わるものから見ても有難い状況となったと思います。
ただ私が1点気になったのは、原さんの今後の回復です。
原さんの場合、摂食障害とクレプトマニアのクロスアディクションを抱え、有名人であるにもかかわらずわずか1年の間に再犯しています。これは依存症に関わる者としてみると、なかなか大変な状況で、回復は決して甘い道のりではないと思います。
確かに依存症は再発が多い病気なので、温かく見守って頂きたいのですが、やはり自分の経験を振り返っても、仲間達の状況をみても、何度も再発を繰り返し止まらないと、回復環境に身を置き続けることが辛くなって、ドロップアウトしていってしまいます。
報道ベースの情報しかないのでハッキリわかりませんが、1度目の万引き後3か月の入院治療を経て再発し、今は派遣社員として働きながら、通院されているとのことでしたが、通院がどの程度のペースか?分かりませんが、今は自助グループなども利用しながら、毎日なんらかの回復環境に身を置くべきと思います。
私自身も、ギャンブルが止まって回復が始まった頃から2年間位は、とにかく必死で通院やカウンセリングを織り交ぜながら、毎日自助グループに通っていました。土日の休みなどは、朝、昼、晩と、通える場合は3回自助グループに出席したりしていました。
これは私が特別な努力家だったわけではなく、依存症からの回復者なら、誰でも当たり前に通ってきた道です。その位、最初の1、2年は強迫観念が強く、ちょっと油断するとすぐ元に戻ってしまうのです。
原さんも、今は裁判を終えられたばかりで、注目されてもいらっしゃいますので、相当気が張っているはずですから、つい「もう大丈夫」と思われてしまうかもしれません。でも、この状況が一段落すると、またムクムクと病気が頭をもたげてきます。知らない間に、そしてあっという間に、病気にのまれてしまいます。
回復した先行く仲間として、一言アドバイスさせて頂くなら、「自分は特別。自分は大丈夫」という思いを捨て、今から2年間はとにかく毎日、自助グループや通院といった回復環境に身を置くことをお勧めします。
そうやって毎日同じ病気を抱える誰かと関わっていると、原さんによって支えられる仲間達が現れ、原さんの真の居場所ができて自尊心も回復されることと思います。
居場所とは用意されるものではなく、自分で作るものなんだと私も回復してみてわかりました。
原さんにとって、回復環境が居心地よい場所になることを心から願っています。
編集部より:この記事は、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2018年12月5日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。