日本国債の急変動に備え、墓場まで持っていってもらっては困る情報

久保田 博幸

先日、元日銀関係者と話をする機会があった。金融政策の決定にも関わっていた人であり、話のなかで「墓場まで持っていく」という表現が気になった。その話の内容については当然ながら話してはくれなかったが、察するに日銀の金融政策の変遷において議事要旨どころか議事録にも載らない話というものが存在していることに、あらためて気付かされた。

10月の金融政策決定会合後の記者会見(日銀サイトより:編集部)

政治家や大手企業経営者のみならず、その立場によっては、墓場まで持っていかざるを得ない情報というか、守秘義務が生じる情報を明らかにしないまま消えてしまったものは多数あると思う。

なぜそんなことを考えていたのかというと、現在の日銀による異次元の緩和策からは、いずれ出口に向かわざるを得なくなると思ったためである。日銀の出口戦略により何が起きるのか、そのためにはどのような準備をしておく必要があるのかを考えておくことも必要であろう。もちろん想定されるのは、日銀の出口戦略による債券市場への影響となる。

外為市場や株式市場も無関係ではいられないが、現在の日銀の金融政策は長期金利コントロールが含まれており、いわゆる国債の官製相場からの脱却が見込まれ、それによる債券市場の動揺は免れない。もし市場がオーバーシュートしたならば、どのような対処が必要なのか。

債券市場のクラッシュの事例はそれほど多くはない。また同じようなクラッシュになると想定することがそもそもおかしいこともわかってはいる。それでも例えば1998年末の「資金運用部ショック」では何が要因となり、どのような対処がされ、市場はどのような動きとなっていたのかを各方面からスポットをあてて探ることで、クラッシュ時の状態を再現することも必要になるのではなかろうかと思うのである。

ちなみに運用部ショックは、当時、現在の日銀のように国債を大量に保有し、市場から日銀のオペのような買入も行っていた資金運用部が、国債引受を削減させるとか、国債買入を停止するとのアナウンスがひとつのきっかけとなっていた。

運用部ショックに関わる情報については、各方面がそれぞれ秘密裏に抱え込んでいることで、実態を明らかにすることはかなり難しいと言わざるを得ない。たとえば現実に誰が国債を大量に売ったのか、また債券先物を売ったのは誰か。具体的な手口情報は当事者や取引所関係者などしか入手できない。クラッシュに対して財務省や日銀はどのような動きを具体的にしていたのかについても当事者でなければわからない。我々が知っているのは新聞記事に載ったもの、市場での噂などによる情報、実際の価格の動きでしかなかった。

運用ショックの分析が果たして日銀の出口戦略に行かせるかどうかはわからない。それでも債券市場の現実のクラッシュがどのようにして起き、どのようにして収縮していったのかを明らかにしておくだけでも事前準備にはなるのではなかろうか。そのためには墓場まで持っていってもらっては困る情報が多数あるように思われたのである。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年12月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。