混迷する英国のEU離脱(ブレグジット)問題

久保田 博幸

英国のメイ首相は11日に予定していた欧州連合(EU)離脱案の議会採決を延期すると表明した。英議会では離脱案への反発が強く、メイ政権は大敗を避けるために採決を先延ばししたとされる。

ある程度予想された事態が発生した。このまま採決に持ち込めば、反対多数となることが予想され、無秩序な離脱の可能性が強まることになる。

メイ首相の欧州連合(EU)離脱計画が議会の承認を得られず無秩序な離脱に至る場合、英経済は少なくとも第2次世界大戦以降で最悪の不況に陥る恐れがあると、イングランド銀行が28日公表した報告書で厳しい警告を発していた。

とはいえ、解決策も見いだせない。そもそも論として離脱するならきっぱりと離脱すべきだが、英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドの間での国境管理という問題が存在する。

離脱案では、問題が解決するまでの安全策として「英国をEUとの関税同盟に残す」という安全策などを盛り込んだそうだが、これにはきっぱり離脱すべき派が、うんとは言わない。さらに議会は果たして国民が選択した離脱を選択しようとしているのかにも疑問が残る。

アイルランドの国境問題が引っかかっていることで、メイ首相も将来、安全策から確実に抜け出せる妙案も示せないでいる。しかし、これはあくまでひとつの理由である。これまでのような欧州連合(EU)に残ることで得ていた利点を失いたくはないというのも大きな要因とみられる。

EUのトゥスク大統領は10日、採決延期を受け、ツイッターに「英国との離脱案の再交渉には応じない」と投稿した。一方で「英議会の承認を容易にする方法を議論する用意はある」と述べ、メイ首相との対話には応じる考えを示した(日経新聞電子版)。

メイ首相が苦境に立たされていることは十分承知ながら、安易な妥協も当然できない。このままでは英国を主体とした金融経済危機が生じる懸念もある。EU内ではフランスの状勢もやや怪しくなってきている。米中の貿易摩擦への懸念も再度強まるなか、あらたなリスクが欧州から生じる可能性もありうるため、今後の状勢も慎重に見ていく必要がありそうである。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年12月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。