アルゼンチンで開かれていた主要20カ国・地域首脳会議(G20)が、12月1日に閉幕した。
いちばんの注目だったのは、アメリカのトランプ大統領と、中国の習近平国家主席の会談だろう。
アメリカは、中国への追加関税を10%から25%へ引き上げようとしていた。だが、会談の結果、ひとまず90日間の交渉期間を設けることになったのだ。
一方、中国も、アメリカから農産物や工業製品などを輸入することで合意した。90日間という猶予期間ができたわけである。
だが、日本のメディアは、交渉ではケリがつかないだろうと評価している。なぜなら習主席は、「中国製造2025」を計画している。つまり、2025年までに「製造強国」となり、2035年には、さらにレベルアップする。そして、2045年には経済面でも、軍事面でも、アメリカを引き離す、としているのだ。
そんなことを、アメリカが許すはずはない。だから、猶予期間を過ぎれば、再び新冷戦状態になるだろうと、多くのメディアは予測しているのだ。
現に、G20が終わった途端、アメリカは、中国との交渉責任者は、ムニューシン財務長官ではなく、ライトハイザー通商代表だと発表した。ムニューシン財務長官は対中融和派だ。一方、ライトハイザー通商代表は対中強硬派だ。
さらに5日、カナダ司法省が、アメリカ警察当局からの要請により、中国ファーウェイ社の最高財務責任者、孟晩舟さんを逮捕したと発表している。ファーウェイ社は、中国の通信機器メーカーで、スマートフォンのシェアはアップルを抜いて世界2位だ。
アメリカのメディアは、同社がアメリカのイラン制裁に違反した疑いと伝えている。だが実際は、ファーウェイの技術が、スパイ目的で中国政府に利用されていると見ているのだ。米中交渉は、こじれにこじれそうである。
もうひとつ注目する点がある。安倍・プーチン会談だ。北方領土交渉は、両国の外務大臣が担当することで合意した。だが日本のメディアは、そうはいっても返還は難しいだろうと悲観的だ。それでも僕は、北方領土の返還は具体化するだろうとみている。
プーチン大統領と深い関係にあり、北方領土問題についてもっとも詳しいのが、鈴木宗男さんだ。小渕恵三元首相、森喜朗元首相をプーチン大統領と引き合わせ、2島返還プラスαで交渉を進めたのも鈴木さんである。
しかし、小泉純一郎首相の時代、当時の田中真紀子外務大臣によって、交渉は潰されてしまった。それだけではない。鈴木さんは、あっせん収賄などで逮捕され、有罪となったのだ。この逮捕について、僕はえん罪だと考えている。
その鈴木宗男さんだが、安倍、プーチンの会談の内容は具体化し、2人が両国のトップのうちに実現するだろうと話している。
ただプーチンは、「返還はするが主権はロシアに」とも主張している。これは前にも書いたように、日本主権となると、地位協定のもと、アメリカが基地を建設してしまうからだ。
そこで、何らかの手立てが必要なのだが、これについては、安倍首相とトランプ大統領の間で話し合われ、「手応えがあったはずだ」と鈴木さんは言う。だからこそ、安倍首相は、実現の目途を宣言できたのだ。ロシアがいま、経済危機にあることも大きい。
それにしても、今回のG20で、安倍晋三首相は存在感を示した。トランプ大統領、プーチン大統領、そして習主席とも会談した。インドのモディ首相を含め、初の日米印3カ国首脳会談も実現させた。これは、日本が政治的にも経済的も安定しているからだ。それ以上に、安倍首相が各国首脳と比べても、長いキャリアを持っていることも大きいだろう。
国際政治で存在感を見せることは、とても大事なことだ。ましてや、トランプ大統領、プーチン大統領、習主席という、大国の首脳たち、しかも強烈なキャラクターの中で、懸命にやっていると思う。
国際政治で存在感を見せることは、とても大事なことだ。ましてや、トランプ大統領、プーチン大統領、習主席という、大国の首脳たち、しかも強烈なキャラクターの中で、懸命にやっていると思う。
しかし、懸念はある。ある自民党幹部がオフレコで僕に、「安倍さんは、彼らとどう付き合うかで精一杯で、国内政治にまで手が回っていない」と話したのだ。
たしかに、国内に目を向ければ、問題は山積みだ。入管法改正案は、たった十数時間の審議で強行採決、通過した。しかも安倍首相は、野党からの質問にろくに答えられなかった。消費税増税問題は、軽減税率などがあいまいなままだ。憲法改正問題にいたっては、党内でも十分に話し合われていないという。
このたいへんな世界情勢のなか、外交にエネルギーを使うのはわかる。それは、とても大事なことだ。しかし、国内に目を向けず、いまのように雑な国会運営をしていたら、国民は自民党に不信感を持ち、そっぽを向いてしまうだろう。
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2018年12月13日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。