日本では、1980年代から「ゆとりある充実した学校生活を実現」する目的として、ゆとり教育が始まりました。詰込み型教育での反省として開始し、週休2日制が導入された1992年度には「個性を生かす教育」として改定。中学校では2011年度まで続いたとされています。
米国では、別の角度から「ゆとり教育」の議論が高まっています。
何かと申しますと、”宿題”です。宿題が多過ぎて家族との時間やリラックスする時間、趣味に割く時間がとれないとして、問題視されているというのです。ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、ネブラスカ州やテキサス州などの例を取り上げ”宿題なし”を導入する学校が増加中と伝えていますが、リベラル色の強いニューヨーク市の公立小学校で2015年から”宿題なし”を実施していました。宿題が与える学習効果が実証されていないためで、教師だけでなく研究者も同調しています。さらに、宿題で自分の時間がないことへのストレスが、勉学の妨げになるとの指摘もあるのだとか。解決策としては、”宿題なし”のほか、宿題を評価対象から外すという代案の採用が挙げられています。どこかで聞いたことがあるような気がするのは、筆者だけではないでしょう。
そもそも、米国では宿題の負荷が高いのでしょうか?教育省のデータをみると、小学校の週当たり宿題時間は2016年に4.7時間で、2007年と変わらず。ただし高校生の間では6.8時間から7.5時間へ延びていました。以下は2016年のデータです。
世界的にみると、OECD加盟国平均が4.9時間に対し米国の宿題時間は6.1時間で63カ国中14位と確かに長いように見えます。一方で、日本は意外似短く3.8時間でした。
宿題時間が最も長い中国は、数学のスコアもトップだったこともあり、宿題量は成績に比例するように見えます。しかし、日本も数学の成績では66ヵ国中で7位とトップ10内で、宿題時間が最短の2.8時間であるフィンランドも16位と健闘しているのですよ。米国は36位で、OECD加盟国の平均以下でした。
なぜ日本やフィンランドは宿題時間が短い割に好成績なのか。それは、効率的な勉強法や塾通いなどが挙げられています。日本に限っていえば、生徒が掃除を担当する点を挙げ、規律を覚えさせるだけでなく、時間や衛生面などの管理能力を育成しているとの分析もあります。
米国に話を戻して。
”宿題なし”に対する反応はというと・・・必ずしも賛成意見が多数派とは言えません。NY市の小学校で”宿題なし”が導入された後、転出する生徒数が増加したといいます。また、保守派が多いWSJ紙の読者の間でも、反対意見が数多くみられました。「リベラル派は格差問題を取り上げる割に、教育という梯子を使って上を目指す環境を否定している」と辛辣な意見を投稿する方も。宿題の量に関する議論は別として、NFLの伝説的コーチで、スーパーボウルのトロフィーの名前にもなったヴィンス・ロンバルディ氏の名言「成功が仕事の前にくるのは、辞書の世界だけだ(The only place where success comes before work is in the dictionary.)」を思い出さずにいられません。
(カバー写真:r. nial bradshaw/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年12月13日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。