東京電力ホールディングスには手を出すな

どこかの名家には、株は危ないから手を出すな、という古い家訓が有効なものとして伝承されてはいないだろうか。これは、株は投機だという教えである。一方で、株式を使った資金調達は産業金融に不可欠なものだし、株式投資は、社会的責任を負う機関投資家にとって、当たり前のものである。

要は、株式は投機対象であり得るし、投資対象でもあり得る。では、株式が投資対象であり得るための条件とは何か。その条件を欠いた場合には、株は危ないから手を出すなという教えを守るべきなのである。

その条件とは、不確実性の合理的な測定が可能であることである。事業には不確実性がつきものだが、その不確実性の合理的な測定ができないときは、思惑で株価変動しやすく、投機としては面白いが、投資対象にはなりにくいということである。

合理的測定が可能であるためには、不確実性が管理可能性のもとにおかれていなければならない。管理できていれば、当然に測定できる。測定できなければ、測定できない前提のもとで、何らかの管理方法が工夫されなければならない。

原子力発電所の事故の可能性は、最高度の安全基準のもとでも完全には排除されず、事故に起因する損害額の見積もりは不可能であるから、測定不能な不確実性の代表例である。故に、法律によって政府の最終責任を定めておく必要があり、それが「原子力損害の賠償に関する法律」なのである。この法律により、測定不能な不確実性は管理可能性下におかれ、東京電力の株式は立派な投資対象たり得たのである。

さて、ならば、今も東京電力ホールディングスの株式は投資対象であろうか。原子力政策の将来についての政治的不透明性のもとでは、もはや、原子力事業の不確実性は管理可能性を失っているのではなかろうか。

東京電力ホールディングスの株式は上場されている。東京証券取引所は、東京電力の株式の価値を判定する機関ではなく、上場維持基準が形式的に守られている限り、上場継続を認めるほかなかったからである。上場企業であれば、東京証券取引所株価指数の算出にも自動的に含まれる。指数に含まれれば、指数連動の運用における投資対象になる。故に、東京電力ホールディングスの株式は立派な投資対象になる。この理屈、おかしくはないのか。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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