平時に非常時の緩和を続けたツケが回ってくる懸念

12月19日、20日に開催された日銀の金融政策決定会合における主な意見が公表された。12月に入り、米国株式市場を中心に東京株式市場を含めて、世界的に株価が調整局面となっていた。この背景には世界的な景気の減速懸念があったが、日銀は足元の景気動向や今後についてどのような認識となっているのかを、この「主な意見」から探ってみたい。

20日、金融政策決定会合後の記者会見(日銀サイトより:編集部)

経済情勢に関しては、さすがに慎重な見方がでてきている。「わが国の景気は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している」との発言は黒田総裁のものとみられる。「先行きも緩やかな拡大を続けるとのメインシナリオは維持されている」との発言が続き、7~9月期の実質GDPのマイナス成長については、一時的なものとみているが、「米中間の通商問題をはじめ世界経済の不確実性が高まる中、先行きの下振れリスクは強まっている」との声が出ている。

「景気の先行きについては、米中貿易摩擦を背景に慎重な見方が増えているため楽観視はできない」との意見もある反面、海外経済について総じてみれば着実な成長を続けると考えられるとの意見もある。

「経済に対するリスクは下方に強まっている」との意見が何人かから出ている。特に中国経済の先行きに関して減退を示している可能性があるとの指摘があった。米国経済よりも中国経済の動向の方が注視されているようにも思われる。

これに対しての金融政策に関する議論では、7月の金融政策決定会合で決定した金融市場調節や資産の買入れをより弾力的に運営することによる成果などが意見として出されていたが、「政策の効果と副作用を慎重に点検しつつ、現行の金融緩和を続けることが肝要である」との意見に集約されているようにも思われる。

ただし、「7月の枠組み強化に沿って、長期金利が一時的にマイナスになることも許容すべきである」との意見もあった。実際に10年債利回りは28日にマイナスとなっていた。

「この状況で、金利を元に戻すようなオペレーションを行えば、むしろ金融を現状より引き締めることになってしまう」との意見も出ている。このあたりが日銀にとっては悩ましいところとなろう。

米国の株式市場が調整局面入りし、ここにきて乱高下してきている。この背景には米国のトランプ大統領の言動も大きいというか、ポピュリズム政策の負の側面が大きくなっていることが挙げられる。金融緩和の後退が主因との見方もあるが、FRBの正常化は今年に入ってから始まったわけではない。

今後については景気の減速感が強まることも予想され、株式市場や外為市場の動向次第では、日銀に対して金融緩和への期待感が強まる可能性がある。しかし、日銀は数字上は際限なく金融緩和は可能であるとしているものの、その副作用など考慮するとすでに緩和余地はほとんど残されていない。平時なのに非常時の緩和を続けたツケが回ってくる懸念が今後強まることも予想されるのである。


編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2018年12月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。