祖父母・親・子:全国名門校の世代別変化を解説

八幡 和郎

新年は子どもや孫と話す機会も多い。そんなときに、自分の高校生時代や子どもや孫の進路について語ることにもなろうが、最近の状況を知っておかないと話がかみ合わないだろう。そこで、最近、「日本の高校ベスト100」(啓文社書房)を書いて思った、祖父母や親はこんなことを知っておくといいと思ったことを書いておきたい。

日本の高校ベスト100
八幡和郎
啓文社書房
2018-12-12

#nsbp

日比谷高校(Wikipedia:編集部)

昭和32年(1957年)の東大と京大の合格者数ベスト10を見ると、東大が①日比谷、②戸山、③新宿、④西、⑤麻布、⑥教育大付属、⑦小石川、⑧湘南、⑨両国、⑩上野と圧倒的に都立高校が優位だった。京大は①洛北、②鴨沂、③膳所、④北野、⑤灘、⑥朱雀、⑦大手前、⑧天王寺、⑨住吉、⑩紫野と、これも京都周辺の公立名門校が並ぶ。

それが、昭和40年(1965年)ごろから、東京都の学校群制度などにより、高校の平準化や熱心な受験指導の回避が図られた。その結果、私立高校の人気が高まった。さらに、中高一貫による前倒しのカリキュラムも魅力だった。その結果、現役で費用が高い私立学校に行かないと東京大学など難関大学に行きにくくなった。

昭和50年(1975年)を見ると、東大が①灘、②筑波大駒場、③麻布、④学芸大付属、⑤ラサール、⑥教育大付属、⑥湘南、⑦武蔵、⑧浦和、⑨戸山、⑩栄光…都立は戸山だけとなった。京大は①北野、②天王寺、③大手前、④甲陽、⑤京都教育大付属、⑥洛星、⑧大阪教育大付属、⑨岐阜、⑩三国ヶ丘で、京都の公立高校が消えた。智辯和歌山は大阪府南部にも強い。

開成(Wikipediaより:編集部)

そして、今年は東大が①開成、②筑波大駒場、③麻布、④栄光、⑤桜蔭、⑥聖光、⑦学芸大付属、⑧渋谷幕張、⑨日比谷、⑩海城 、京大が ①北野、②洛南、③天王寺、④膳所、⑤東大寺、⑥西大和、⑦大阪桐蔭、⑧堀川、⑨甲陽、⑩洛星だった。公立が通学区域を廃止したりして盛り返している。それから、私立でも特色ある新しい名門が登場している。

私立については、カリキュラムの前倒しによる効果、優秀な生徒の囲い込みなどを狙って中高一貫を徹底し、高校からの募集をやめるところが多くなっている。

また、女子が東大など難関大学をめざすことが多くなっているために、関東では桜蔭に代表される女子校が躍進し、関西では洛南、西大和など男子校の男女共学化が目立つ。公立の男女別学は東北では解消され、北関東のみとなった。

公立では日比谷に代表される古豪というべき名門高校の復活も見られるが、通学区を廃止しても、県教委が優秀な教師の派遣や理系などの学科の設置でバックアップで支援しないと成果は出ず、空振りになることも多い。

堀川や広島の広島中等教育学校のように、必ずしも受験校でなかったところとか、新設の中高一貫校が躍進したりしている。千葉が中高一貫コースを設けたのは地方名門公立の長期低落傾向への対策だ。

地方からは、人材が枯渇し始めているのか、公立、私立を問わず不振が目立つ。県でいちばんの進学校でもかつての半分くらいしか東大へ合格していないといったことも多い。私学は、県境を越えて生徒を集めるので、交通の便は大切だ。洛南は京都駅に近く、東大寺は学研都市線、西大和は関西本線沿線で県境と関係なく生徒を集める。広島学院は山口県から便利だ。公立名門で人気がないところには、交通の便が悪いところも多い。伝統の場所にこだわらず移転を検討すべきだ。

医学部に人材が偏在する状況を変えるべきだ

東京大学医学部 2018年度 五月祭企画『医学フェスタ』Facebookより:編集部

日本では医学部に極端に人材が集まる特殊な状況があるが、このおかしな状況はますます進行している。理系の他学部の優秀な人材への低待遇と医師の安全有利さは際立っている。また、法学部は官僚と弁護士の待遇悪化で人気低下。

このためにさまざまな歪みが生じている。地方大学の医学部も東大・京大並になり、東大・京大・国公立医学部の合格者を並列させて争うことが多くなっている。旧帝大の医学部に現役で合格するためには、有名私立の中高一貫制に通いながら鉄緑会など塾でダブルスクールで勉強しないとほとんど無理である。

私立高校もしばしば、医学部予備校化している。医師はおいしくないと言い張るが、開業医だけでなく勤務医の子の多くが無理な学費を払いながら私立も含めた医学部をめざす現状を見れば嘘であることがわかる。

その結果、西日本では、ラサール、愛光、久留米大付設に代表される私立一貫校に中学生から医学部へ行くために遠隔地から送る。有名女子校からも医師の娘や地元に残りやすい女性向きの職業として企業経営者の娘が医学部をめざすので、医学部予備校化する。地方公立医学部のなかには、遠隔地の病院に行かされにくいので女子に人気が出て女子医大化していたりする。女子大附属女子校では、エスカレーターで女子大へ進む生徒が極端にすくなくなっているところもある。

いずれにしても、医師に向かない、医学に興味がない、体力がない、一生やるつもりがない若者が医学部に集中することは、日本の社会経済、教育、そして医療体制を揺るがす大問題になっており、最近の医学部入試不正問題もその歪みが現れたものであって医学部をのみ批判するのはおかしいと思う。

ちなみに私は医学部を廃止して大学院レベルではじめて医者になることが確定するメディカル・スクール体制に移行することを提唱している。

新しい動きとしては国際化への対応がある。渋谷学園幕張が典型的だが、外国人留学生を入れたり、日本の大学を経由せずに、外国の有名大学に直接行ける体制をめざす学校も増えている。また、帰国子女を歓迎し、中高一貫のみとする場合も帰国子女は例外といったところもある。

大学合格者数を非公開にしているところは少なくなったが、神戸女学院はいまもそうだ。ネット情報では現役で東大17、京大28でそれぞれ理Ⅲ、医学部を複数含むらしい。

宗教系の学校では宗教教育に熱心なところは、女子校を除いて少ない。創価高校などでも宗教教育はしていないという。

日本の高校ベスト100
八幡和郎
啓文社書房
2018-12-12