文在寅韓国大統領の「初夢」

※今回はフィクションになります(編集部)

「大統領! 欧州のA国に駐在していた北朝鮮外交官がわが国に亡命を申請してきました」

硬いベットで眠れない夜を過ごした文在寅大統領は目の前に立っている側近の顔を見ながら、「今度は大使か、それとも公使か」と直ぐに聞いた。側近は、「大統領、大使です」と答えると、文大統領は深いため息をつきながら、「ああ~、これでは俺が進めてきた南北融和路線はおじゃんだ。何か対応はないか」と聞いた。

▲新年の演説をする文在寅大統領(2019年1月2日、韓国大統領府公式サイトから)

▲新年の演説をする文在寅大統領(2019年1月2日、韓国大統領府公式サイトから)

側近は少し驚いた様子を見せながら、「大統領、対応といいますと、亡命申請を却下することですか」と尋ねた。弁護士出身の文大統領は気が利かない側近に日ごろから不満があった。

文大統領はイライラしながら、「分かっているだろう、君。メディアには絶対に北大使の亡命申請の件が流れないように関係者に釘を刺しておいてくれ」といった後、「君、平壌に直ぐにホットラインを繋いでくれたまえ」というと、ベットから跳ね起きて着替え始めた。

文大統領は金正恩朝鮮労働党委員長との電話会話に備えて、どのように報告すべきかを考えた。

「金正恩氏は激怒するだろうな」という思いがまず浮かんできた。ここ1週間で3人の北外交官が既に韓国へ政治亡命を申請してきた。外交官の亡命といえば、数年前までは考えられなかったが、文大統領が南北融和路線を標榜し、金正恩氏と3度の首脳会談をこなしてからは脱北者は増え、国境兵士ばかりか、外交官まで韓国に亡命してきた。外交官の亡命の場合、金正恩氏は「直ぐに送り返してほしい」と言い出すのは目に見えていた。

「強制送還か、それとも韓国への亡命を認めるか」

文大統領はハムレットのような心情になったきた。前者を選択した場合、国民ばかりか、米国や国際人権団体から「非情な大統領」、「中国共産党政権と同じだ」といった厳しい批判が飛び出すことは間違いない。後者の場合、国際社会は「北高官の亡命は金正恩政権の崩壊が近いことを物語っている」と騒ぎ出すだろう。北外交官の韓国亡命を秘密にはできない。メディアに必ず流れてしまう。金正恩氏は南北間の国境警備を再び強化する一方、海外外交官の帰国指令を出すだろう。そのうえで「文大統領には失望しました。南北民族の和合と統合のために共に連携が取れると期待していました」と言い残して、電話を切るだろう。

カトリック教徒の文大統領は同民族の北との融和路線こそ“神の御心”だと信じてきた。だから、米国の対北制裁にも関わらず、海上ルートなどで経済支援をしてきた。それだけではない。トランプ米大統領には対北軍事攻撃がどれほど危険かを説明し、軍事攻撃という選択肢を取らないように説得してきた。金正恩氏も文大統領の努力を評価してくれた。そして南北間の境界線の一部解除や監視施設の撤去が実施された。

南北融和路線は着実に実行に移されてきた矢先だ。北から亡命者が次から次と韓国に入ってきたのだ。

「強硬路線だったら、脱北者の殺到は韓国の政権にグットニュースだが、南北融和路線を実施している時、脱北者が増加すれば、皮肉なことだが、政権に致命的なダメージを与える」

文大統領は金正恩氏からの電話を待ちながら、少し遅くなった朝食をとりだした。

「俺はついてないな」と独り言を発した。「あと半年、南北融和路線が継続されれば、南北再統一という民族の夢も実現する道が開かれたはずだ」と怒りがこみ上げてきた。その怒りが脱出する北朝鮮の国民に向けられていることに気が付いた文大統領は周囲を見渡しながら、「俺も変わってしまった」と呟いた。

「大統領、平壌との回線がつながりました」

側近が連絡してきた。文大統領は重い腰を上げながら「ありがとう」と言ってホットライン室へ向かった。

「なんて言えばいいだろうか」と同じ問いを繰り返しながら、歩き出した。

「ねー、朝ですよ」

金正淑夫人の元気のいい声で文大統領は目を覚ました。「夢だったのか」とホッとしながら、硬いベットから立ち上がり、着替えた。

朝食のテーブルにはその日の朝刊が置いてあった。大好きなコーヒーを飲みながら中央日報を読みだした。

「あー」。文大統領は思わず叫び、そのはずみで食卓の椅子から落ちそうになった。

中央日報は「北朝鮮のチョ・ソンギル駐イタリア大使代理が最近潜伏して西側への亡命を打診している」という記事を報じていたのだ。
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韓国聯合ニュースによると、最近では16年、太永浩・元駐英北公使が韓国に亡命した。また、張承吉・駐エジプト北朝鮮大使(当時)が1997年、駐パリ代表部参事官だった兄と家族を連れて米国に亡命している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年1月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。