年頭所感

北尾 吉孝

明けまして御目出度う御座います。
今年は皆様も東京始め多くの地域で天候に恵まれ楽しい正月休みを過ごされたのではないでしょうか。

それでは、早速吉例に従い今年の年相を干支で見ましょう。

今年の干支は己亥(きがい・つちのとい)です。

最初に、古代中国の自然哲学である陰陽五行説(ごぎょうせつ)で見ましょう。

己(つちのと)は土の弟ですから、「土」の性質があり、弟ですから陰です。亥は五行で表すと「水」になります。

つまり「己亥」は土と水の組み合わせということで、土が水を濁(にご)らせたり、水をせき止めるので、土剋水(どこくすい)という対立・矛盾する「相剋」の関係となり、本年は波乱の年となることを暗示しています。

このことを念頭に置いていただき、己亥それぞれの字義について詳説致しましょう。

先ず、「己」ですが、その甲骨文の解釈については、諸説ありますが代表的なものとして、白川静は「定規に似た器の形または糸を捲(まき)取る器」と見ている。他説としては、曲りくねった長い糸の端の形と見たり、伸びた新芽の曲った形と見るものがある。己を曲りくねった糸の端緒の形と見ると、その紊乱(びんらん)した糸の端を引き出して、その糸筋を正しく整理する義を持つ「紀」のもとの字が「己」であると解し、「己は紀なり」となります。「己」は「おのれ」を意味しますから、「己を正す」ということにもなります。

また、抑屈し曲っていた新芽が曲がりながらさらに伸び起こってくることから、『五行大義』に「己の言は起なり」として、「己」は「起」の原字だと説いています。漢の名書『白虎通』にも己は「抑屈より起こる」とあります。

次に「亥」の字義について見ましょう。語源的には豕(いのこ:豚・猪など)の象形文字です。

亥は旧暦の十月であり、植物の果実が硬い核すなわち「種(たね)」を形成する時です。そしてその「種」の中に一種の起爆性エネルギーが凝縮・蓄積されている状態です。つまり植物の生命が種子の中に閉じこめられ、閡(とざ)されている状態です。『釈名(しゃくみょう)』ではそうした状態を「亥は核である。百物を収蔵す」とか「物皆堅核と成る」意と説明されています。

また、『説文』に「微陽起こり、盛陰に接す」とあり、新生の気が萌(きざ)す回生の兆(きざし)です。『史記律書』にも「亥は陽気下に蔵す故に該(そなわる)なり」とあります。つまりエネルギーを蓄えて次の世代へと向かう準備をしているのです。王筠(おういん)の『説文解字句読』に「一に始まり亥に終わるは、亥は一に反(かえ)りて、循環して端無し」とあり、十二支の最後に循環・転換の意が含められているのです。

以上、「己」・「亥」それぞれの字義を統合しますと「己亥」の年相は次のようになります。

前年の戊戌(ぼじゅつ)の年の煩雑さや複雑さが、今年にかなりの部分が未解決な状態で持ち越されてきたようです。例えば米中貿易戦争、米朝の核問題、英国のブレグジット等々、今年解決すべき重大課題として多く残っています。その上、今年が物事が順調に進みにくい相剋の年ということもあり、なかなか難しい年です。

そうした年相だからこそ、先ず何よりも己を正すことが必要です。

『荘子』にも『己を正すのみ。小識は徳を傷(やぶ)り、小行は道を傷る…小さな計(はか)らいは徳を傷つけ、小さな行いは道を傷つけるだけで、己を正すことより自己の本来の性に立ちかえり、至楽(しらく)の境地が実現し、「志」を得るということになる』とあります。己を正し、紊(みだ)れな糸筋(すじ)を通して、前年からのごたごたを順次解消していかなければなりません。その場合、「亥」が色々なエネルギーや問題を秘めていることに留意しなければなりません。時として、爆発的なネガティブなことが発生する可能性があるのです。

現に、亥年の年は次のような大きな自然災害が非常に多く発生しました。

一七〇七年:江戸時代の南海トラフのほぼ全域にわたる巨大地震である宝永地震、富士山宝永噴火
一九二三年:関東大震災
一九八三年:日本海中部地震、三宅島噴火
一九九五年:阪神淡路大震災
二〇〇七年:新潟県中越沖地震

このように史実の歴表に徴(ちょう)してみますと、前記した己亥の年相がよく御理解いただけると思いますので、六〇年前の己亥の年の出来事を見てみましょう。

六〇年前の一九五九年は、一月一日のキューバ革命で幕を開けた。

三月にはチベット蜂起がチベット自治区の中心都市ラサで始まった。反中国・反共産主義の民衆暴動の勃発です。また日本では日米安保条約改定阻止国民会議が結成され、翌年の国論を二分する安保闘争へとつながっていきました。

四月には、今上天皇と正田美智子さんが御成婚。その今上天皇が今年の四月三〇日に退位されることが決まっております。両陛下が御元気で六〇周年のダイヤモンド婚を迎えられることは真に感慨深いものがあります。

八月には一月のアラスカに続きハワイがアメリカの五〇番目の州となり、現在のアメリカ合衆国が出来上がりました。

九月には、伊勢湾台風により死者五千四十一人、被害家屋五十七万戸という明治以後最大の台風被害がもたらされました。また同九月にソ連のフルシチョフ首相が訪米し、アイゼンハワー米大統領と第二次大戦後初の首脳会談が行われました。これにより冷戦時代に一時的雪どけ状態がもたらされたわけです。

文化面では日本人初の二つの快挙がありました。一つは、小澤征爾が世界的なブザンソン国際指揮者コンクールで初優勝。小澤さんはなんと応募の締切日にこのコンクールのことを知り、応募したら優勝だったらしいです。
もう一つは、ミス・ユニバース世界大会で児島明子が優勝しました。児島さんは日本代表になるまで三回も挑戦しており、すんなりと行ったわけではなかったらしいです。

この年一九六四年の東京オリンピックも決まりました。

経済面では、五八年七月から始まった岩戸景気の真っ只中で、二桁の実質経済成長が五九年度、六〇年度と続きました。六〇年度末には徐々に好景気も末期症状を見せるようになりCPIも上がり始めました。

前期のように己亥の年には良くも悪くも非常に強い直進的なエネルギーが働きます。従って自身の充実と成長を心掛けると爆発的な個人的成果が出るかもしれません。

最後に、以上記した年相を踏まえ、我々SBIグループとしてはどうあるべきかについて触れておきます。

第一に、SBIホールディングスは御承知のように今年七月八日に創業二〇周年を迎えます。今年の年相に因んでグループ全体としてこれまでのあり方や各役職員の態度や意識の綱紀粛正を図り、次なる飛躍を目指す準備をする年としたい。

第二に、今年は全く新しい挑戦をするというよりは、去年までに打ち出した未完の戦略や培ってきたことを大切にし、しっかりと地固めをしていく年としたい。

具体的には、①ブロックチェーンの技術をグループ各社に活用させるべくFintech2.0への動きの加速化、②地域創生に向けた地域金融機関との共創の推進、③SBIデジタルアセットの生態系の収益化、である。

第三に、今年は国の内外で政治・経済両面で予期せぬ大きな変化や転換が起きうる年相なので、グループ各社で人財の育成や財務基盤の強化、自然災害に向けた安全対策といった基本的な面で内部の充実を図り、備えておくことが肝要である。

以上、肝に銘じておいていただきたいと思います。

SBIホールディングス株式会社
代表取締役社長 北尾吉孝

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