パナソニック、フルサイズミラーレス一眼市場に殴り込み!

長井 利尚

2018年は、アゴラに寄稿した通り、ソニーの独壇場であったフルサイズミラーレス一眼市場に、ニコンとキヤノンが参入した。デジタル化の荒波により、多くのメーカーがカメラ市場からの撤退を余儀なくされた中、生き残った三強の仁義なき戦いが始まった年として、カメラ史に長く記憶されることであろう。

2019年1月7日、パナソニックは、同社初のフルサイズミラーレス一眼「LUMIX S1R」および「同S1」と対応レンズを3月末に発売することを発表した。

パナソニックのプレスリリースより:編集部

パナソニックは、世界に名の知れた大手家電メーカーである。しかしながら、レンズ交換式カメラに本格的に参入したのは2006年。フルサイズより二周りも小さいフォーサーズ規格(オリンパスとコダックによる提唱)のセンサーを搭載した一眼レフ「LUMIX DMC-L1」が初号機であり、レンズ交換式カメラの世界では、12年余りの歴史しかない新参者である。

パナソニックは、フルサイズミラーレス一眼のレンズマウントに、ライカが開発した「ライカLマウント」を採用した。レンズ交換式カメラにとって重要なポイントは、多種多様なレンズのラインナップを揃えることである。2018年、パナソニックはライカとシグマを巻き込み、「ライカLマウントアライアンス」を結成。3社でレンズを開発することで、フルサイズミラーレス一眼市場で先行する三強に見劣りしないラインナップを揃えたいという意気込みは伝わってくる。

フルサイズミラーレス一眼市場で戦うのであるから、画質の良さだけでなく、過酷な環境でも壊れない信頼性や、考え抜かれた操作性を備えたカメラを投入する必要がある。そうでなければ、プロカメラマンの支持は得られず、三強の牙城に食い込むことは困難と思われる。

ソニーa9(公式サイトより:編集部)

フルサイズミラーレス一眼では、現在のところ、先行しているソニー製品の完成度が高いと私は評価している。ニコンとキヤノンは、フルサイズ一眼レフでプロカメラマンに絶大な支持を得てきたツートップであるものの、フルサイズミラーレス一眼の完成度では、まだソニーに追いついていない印象を受ける。ニコンとキヤノンは、フルサイズミラーレス一眼用レンズはまだ少ない。そのため、フルサイズ一眼レフ用のレンズに、マウントアダプターを介して使用するケースが多いはず。

キヤノン「EOS R」(公式サイトより:編集部)

パナソニックの場合は、そもそもフルサイズ一眼レフというレガシーがないため、レンズをカメラボディに付ける際、マウントアダプターを介する面倒くささはない。パナソニック「LUMIX S1R」および「同S1」には、他社のフルサイズミラーレス一眼にはない、「ハイレゾリューションモード」という「飛び道具」が用意されているようだが、その実用性はまだわからない。

百戦錬磨のニコン・キヤノン、ミノルタのカメラ事業を継承したソニーの三強に、パナソニックが殴り込みをかけ、フルサイズミラーレス一眼市場で、どれほどの存在感を見せることができるのだろう。1987年から30年以上、キヤノンEOSを使用し続けている私の場合、現時点では、パナソニックのフルサイズミラーレス一眼を購入することは考えられない。もし、パナソニックの方がキヤノンより多少優れていたとしても、膨大なレンズ資産を引き継げないシステムに乗り換えることはあり得ないからである。

パナソニックは、当然のことながら、他社に負けないスペックのフルサイズミラーレス一眼を市場に送り込むだろう。ただ、それだけでは、三強のユーザーに乗り換えさせることは非常に難しい。携帯電話のキャリアを乗り換えるのとは、訳が違うのである。レンズ交換式カメラの場合、カメラ本体の性能がいかに優れていても、それだけで競争力を持つことはない。三強には真似できない、何か強力なメリットをユーザーに与えることができれば、激戦の市場で善戦するのかも知れないが、マイナーなポジションで終わる可能性もある。

パナソニックという新参者が、フルサイズミラーレス一眼市場に参入する2019年。各社の動向には、引き続き注目してゆきたい。

長井 利尚(ながい としひさ)写真家
1976年群馬県高崎市生まれ。法政大学卒業後、民間企業で取締役を務める。1987年から本格的に鉄道写真撮影を開始。以後、「鉄道ダイヤ情報」「Rail Magazine」などの鉄道誌に作品が掲載される。TN Photo Office