フランスの司法当局が、IOC(国際オリンピック委員会)の委員を280万シンガポールドル(約2億2000万円)で買収した疑いで、JOC(日本オリンピック委員会)の竹田恒和会長の予審手続きを開始した。竹田会長も事情聴取を受けた事実は認め、JOCも「コンサルタント」に金を払ったことは認めているので、大筋の事実関係はフランス当局の指摘する通りだろう。
郷原信郎さんによれば、リオデジャネイロ・オリンピックの開催を決定する2009年のIOCで、同じディアクを200万ドルで買収したとして、ブラジル五輪委員会のヌズマン会長が2017年に逮捕・起訴された。今回のフランス当局の動きは、このブラジルの動きに呼応して、2013年のIOCでディアクに金を渡した日本も捜査しようというものだろう。
これがゴーン事件の報復だという話は、捜査が2016年から始まったことを考えると疑問だ。むしろ旧宗主国フランスの懸念しているのは、この金が2019年に行われるセネガル大統領選挙の政治資金に使われることだろう。400万ドルあれば、貧しいアフリカの小国を乗っ取ることもできる。
しかし竹田会長がディアク側に送金したとしても、日本の刑法で贈賄罪に問われる可能性は低い。IOCは国際機関ではなく放送権料などで運営されている「国際スポーツ同好会」に過ぎないので、IOC委員は「外国公務員」ではないからだ。ただJOCは政府の補助を受ける公益財団法人なので、竹田会長は背任に問われる可能性がある。
この事件そのものは大した問題ではない。賄賂が有害なのは、政治的意思決定が金銭によってゆがめられるときだが、たかがスポーツ大会の開催地がどこに決まっても、何の実害もない。問題は「公正な審査」で決めるという建て前があるため、開催地が裏金で決まり、ディアクのような個人のポケットマネーになることだ。
これを解決するには、オリンピックの開催地をオークションで決めればいい。そうすれば金の動きは透明になり、落札価格はIOCの収入になる。JOCも事実関係を明らかにして政府の補助金は返還し、「買収はしたが犯罪ではない。オリンピックは私的なスポーツ大会なので、好きなようにやらせてください」と堂々と反論してはどうだろうか。